Viral Hit Creator(第二回)
エヴァ、鬼滅、カービィ……Twitterで話題「コミカルなコマ撮りアニメ」誕生秘話 アニメーター・篠原健太がSNSで発信する理由
「危機感」からSNSでの発信を始めた コマ撮りアニメを続けることの厳しさ
--専門学校を卒業してからdwarfに入るまででも心境の変化があったように、dwarfに入ってからでも心境の変化があったと思いますが、どうでしょうか?
篠原:『リラックマとカオルさん』が終わった後に、ちょっとゆとりができてコマ撮りアニメーターとしての将来を考えたんですね。コマ撮りもはもともと仕事が少なくて、これだけで食べていくのは大変で難しいなと思いました。会社に所属していれば給料はもらえるのですが、どんどん仕事が減っていくんじゃないかという危機感もあったんです。
自分がやりたいことを考えた時に、自分の存在を人に知ってもらえていた方がいい。自分を応援してくれる人たちと、たくさんつながりを持って活動していこうとなった時に、SNSやnoteで発信しようと思いました。
でも当時は発信するものが何もなかったんです。コマ撮りをやるにしても仕事だったので、自分で手掛けたものにも守秘義務がありますし……。そうしていたらたまたまTwitterでアクションフィギュアの写真を撮る人たちを見かけたんです。
何か動かす素材が欲しいと思っていたところ、これをきっかけにフィギュアを使って作品を作ろうと思いました。フィギュアであれば買ってすぐにコマ撮りができるので、仕事から帰ってからでも、負担にならずに発信できるなと。それが2年前ですね。
ーー反応はどうでしたか?
篠原:始めてみたらTwitterでリツイートやいいねが多かったりして嬉しかったですね。仕事だとスタジオで監督やクライアントが喜んでくれることはありましたが、実際の視聴者の感想はあまり分かりませんでした。SNSだと直接リアクションがあってそれが嬉しくてモチベーションになっています。そこからどんどん続けていくうちに知ってもらえるようになったって感じですね。
今の所属会社・LuaaZ(YouTubeのチャンネルの制作・運営を行う)と知り合うきっかけもSNSです。dwarfにいた頃に声をかけてくれてはいたのですが、SNSでの発信をきっかけにYouTubeでも動画をあげていくことを決めました。
--現在SNSの発信では、どのように制作の着想を得ているのでしょうか?
篠原:キャラクターのもともとの個性をなるべく出すようにしています。まずはフィギュアから考えますね。フィギュアの可動部位や、付属のパーツをじっくり見て、そのフィギュアで表現できるもの、触ってみて何ができるのかを考えています。フィギュアの設計によってはどんな動きもできるわけじゃないので。
展開は「このフィギュアだったらこういうポーズができるから、こういうストーリーができる」「この顔のパーツが入ってたら、こういう感情が表現できる」といったようにフィギュアを軸に考えるスタイルです。たまにそのキャラが普段しないような意外なこととか、個性とはまた違ったことを演じさせるのも面白かったりするんですが、そこは見ていて面白くなる展開を考えて作ります。
作品を何個か出していると、またこのパターンかなと思われてしまう可能性もあるので、今回はキャラクターを活かそう、次は意外性を出そうなど1パターンにならないよう工夫しています。アイデアを考えるときは机の前でじっとするのではなく、歩きまわっています。
キャラクターの個性からストーリーや展開を考えていくと、自然と完成してますね。別のキャラクターが共存している場合とか、何とコラボさせるかというのは思いつきでしかないです。『鬼滅の刃』の我妻善逸とゼスプリのキウイにしても、敵の鬼キャラクターが売られてないのでコラボさせたという経緯があります。
昨年ゼスプリのCMを制作してたのもあって、そういえばキウイのフィギュアあったなと(笑)。でも切ったらさすがにかわいそうじゃないですか。それで切った瞬間に本物のキウイにしたり、夢オチだったりといったストーリーを考えました。
--SNSの発信を通して、制作の大変さが報われたなど、嬉しかった反応はありますか?
篠原:運良くいいコメントが多くて、僕の作品を見てコマ撮りを始めたとか、TwitterやYouTubeで親御さんがお子さんと一緒に見て喜んでくれたなどの反応は嬉しかったです。ただ二次創作なので、細かい指摘は多いですね。コアなファンの方からの「もっとこうしてほしい」というリクエストはありました。
企画を考える時には、単なる再現にならないようにしています。再現しただけだと見てる方が本物に比べてどうなのかと減点方式になってしまうので。
あとは著名人が反応してくださった時ですかね。『ストリートファイター』のをアップしたら元CAPCOMのプロデューサー・小野義徳さんやRed Bullの公式が反応してくれたりとか。そういうのが面白かったですね。
--SNSで制作の裏側を見せることでコマ撮りの「大変さ」への理解は増えたのでしょうか?
篠原:CM制作ではありました。制作時間や編集も1枚1枚バレを消していくとか、そういう大変さを知ってもらえることにつながりましたね。
今はCMはほとんどやっていないので、その大変さを逆にコンテンツにしているところはあります。「コマ撮りって大変だよね」で終わっちゃうところが映えるというか。作っている過程が大変であればあるほどコンテンツが増えて、それを楽しんでもらえたらと思っています。
オリジナル制作とスタジオ化 見据える今後の展望
--先ほどの話の「危機感」というところに戻りますが、今後コマ撮り発信を続けていくために考えていることはありますでしょうか?
篠原:みんなが知っている親近感があるもので作品を楽しんでもらえたらという思いもありますが、一方でいつまでもそれじゃいけない、二次創作だけじゃなくてオリジナルもやらなきゃという心境にもなっています。
そんななかで、フィギュアでの制作を始めてみて、よくよく考えると「おもちゃはコマ撮りと相性がいい」ことに気付いたんです。これにより「オリジナルのおもちゃを使えば、コマ撮りを仕事として続けられるんじゃないか」という考えが生まれました。コマ撮りの条件というのは、物質があるということなんですよ。
コマ撮りアニメーターとしてだけで仕事を続けようとなると、例えば予算が足りなくてCGにするということがよくあります。それで仕事がなくなってしまうのはマズいし、長い目で見たら、技術で仕事を取り合うところにいたら将来が危ういと思ったんです。
コマ撮りに必要不可欠な「物質」を「オリジナルのおもちゃ」にして作品をつくり、かつSNSでの発信により見られるようになれば、コマ撮りアニメーターとして今後も作品を発信し続けられるのかなと思っています。
ーー収入を得るための手段として企業案件などもあると思いますが。
篠原:企業案件はいただいてはいますがでもほとんど請けてません。クライアントの仕事となると禁止事項が多いので苦手なんです。
例えばパット見は企業案件に見えるものでも、Red Bullと『ストリートファイター』の作品にちょこっと『シルバニアファミリー』を混ぜていたりとか。こういったものは作れないですよね。
企業案件を請けても面白いものを作れないなら、自分のYouTubeで作りたいと思ってしまいます。
--オリジナルを制作するとなるとネット以外、映画祭やコンテストにも関心が向くと思いますが、最後に今後の展望などありましたらお伺いできますでしょうか。
篠原:ありがたいことに今までコンテストで賞を頂いたりはしましたが、あまり意識はしていませんでした。学校の先生の勧めで応募したりとか、ニューヨークの若手クリエイターを対象とした「ADC Young Guns 17」でCreative Choice Awardを日本人として初受賞したのも、dwarfのプロデューサー松本紀子さんから出してみないかと声をかけてもらい、Whateverの川村真司さんに推薦していただいたのがきっかけだったりするので。
YouTubeやTwitterでたくさん見られたと言っても、それだけだと狭い範囲だとは思います。『PUI PUI モルカー』みたいにテレビで放送できたりとか、『JUNK HEAD』みたいに映画館で上映できるとか、ネットでリーチできる人以外にも届くと思うので、そっちもスゴくやってみたいですね。
今後オリジナル作品を増やしてくにあたり、チームというかメンバーを増やしたいと考えています。僕みたいにコマ撮りを1から撮影・編集できる人を探すか育てるか、またやってみたい人に二次創作で勉強してもらって、合間の時間でオリジナルを作っていくとかですね。
スタジオも作りたいとも思っていて、もう少し広いところを借りてコマ撮りができたらいいですね。そこでチームで作品を作れたらステキだなと思うし、同年代や若い人たちがアニメーターとして成長していくのを見るのも楽しいだろうなと思います。
篠原健太
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCweDxCT5Fiykk3uHqPKqLWg/videos
Twitter:https://twitter.com/shinohara_kenta
コマ撮りクリエイター募集。問い合わせは株式会社LuaaZホームページまで
■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画)、「激変!アニメーション環境 平成30年史+1」(著書:セルアニメーションはコマ撮りから概念に、カットアウトアニメーションで見えてくる認識の変遷ほか掲載)など。