Viral Hit Creator(第二回)
エヴァ、鬼滅、カービィ……Twitterで話題「コミカルなコマ撮りアニメ」誕生秘話 アニメーター・篠原健太がSNSで発信する理由
昨今話題となるものは、その多くがTwitter、Instagram、TikTokなどのSNSの拡散によって生まれるといっても過言ではない。そんなバイラルヒットコンテンツを作り出したクリエイターに話を聞く連載企画「Viral Hit Creator」。
今年1月から1クール放送されたショートシリーズ『PUI PUIモルカー』(監督:見里朝希)や、3月26日に封切られた長編『JUNK HEAD』(監督:堀貴秀)など、このところ何かとコマ撮り(ストップモーション)の話題が続いている。
その一方、『新世紀エヴァンゲリオン』や『鬼滅の刃』などのアニメやゲームのフィギュアによるコミカルなコマ撮りが、たびたびツイートランキングの上位で見かけるようにもなっている。これらはNetflix『リラックマとカオルさん』やゼスプリキウイのCMなどを手掛けたアニメーター・篠原健太によって生み出された作品たちだ。現在アニメーターとして第一線で活躍する篠原は、なぜコマ撮りを志し、SNSで作品を発信し続けているのか。話を聞いた。(真狩祐志)
コマ撮りとの出会い 2Dにも関心、カットアウトや砂絵で制作も
--まずコマ撮り制作に関心を持つまでの経緯についてお聞かせください。
篠原健太(以下、篠原):アニメーション自体への興味は小学3年生くらいからあり、絵を描くのが好きだったので、将来はアニメーターになりたいと思っていました。あとはジブリの影響も大きくて、テレビで制作現場の様子を観たことで、小学生ながら「アニメーターになりたい」と思ったんでしょうね。
アニメーターは絵が描けた方がいいだろうということで、中学では美術部に入りました。一方で絵が描けるだけではダメだろうという思いもあり、高校では体操部に入って器械体操を始めたりもしました。アニメーションの専門的な勉強を始めたのは専門学校に入ってからです。
大阪芸術大学付属の大阪美術専門学校(通称ビセン)で、キャラクター造形学科(通称キャラ造、現:コミック・アート学科)のアニメーションコースだったんですが、そこでコマ撮りをするという授業があって、初めて興味を持ちました。
--大阪芸大のキャラ造(キャラクター造形学科)というと、伊藤有壱さん(ショートシリーズ『ニャッキ!』などのコマ撮り作家。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の教授)が客員教授なので教えに来ていると思いますが、ビセンにも来ているのでしょうか?
篠原:伊藤さんは2年に1回ですか、特別授業で来てくださってましたね。そこで知り合いました。伊藤さんが(東京藝大の)大学院の案内を送ってくださってたというのもあって卒業後は大阪芸大の3年次に編入などを考えたこともありましたが、お金もかかるので専門学校で終わったという感じです。
コマ撮りを始めたのは授業で面白いなと思ったことがきっかけです。キャラ造にはマンガ的な絵というか、今風の絵がめっちゃ上手い人がいっぱいいたんですよ。そんなに僕はそっちの絵は得意じゃないし、キレイな線が引けないと2Dのアニメーターにはなれないと聞いたこともあったので、自分が得意なことをやろうと考えていましたね。
コマ撮りでどんなものがいいかと考えていた時にユーリー・ノルシュテインさんの短編『霧につつまれたハリネズミ』を見て、こんな作品もあるのかと気づかされました。その時はまだ2Dのアニメーターを諦めていませんでしたが、平面でもカットアウト(切り絵)だったら絵が描けなくてもできるとコマ撮りの方向に向かいつつありましたね。
--卒業制作でコマ撮りを選択する場合、卒業後に作る機会がないからといった理由を挙げる人がいたり様々ですね。そういえば当時そのカットアウト作品、見た記憶あります(笑)。卒業後そのままdwarfに入られたんでしょうか?
篠原:よく覚えてましたね(笑)。dwarfには卒業してすぐに入ったわけではなくて、アルバイトの期間が何年かあったんですよ。アニメーション関係の仕事ではなくて、ランドセルの会社です。裁断などの工程や、2DのPRムービーを制作したりしました。自主制作では砂絵のコマ撮りを作っていましたね。
ただアルバイトをするにしても選ぶ基準があって。子どもに関わることか映像に関わることで決めていました。子どもに関わる仕事をなぜ選んでいたかというと、専門学校の時も今でもそうなんですが、子どもに楽しんでもらいたいというテーマが自分のなかにあるからなんです。ランドセルもそうでしたし、器械体操のコーチをしたりもしました。
あとは映像に関わることでいえば、ブライダルムービーのカメラマンもしていましたね。『JUNK HEAD』の監督の堀(貴秀)さんのもとでも、1日だけお手伝いしたことあります。ちょうど30分版を1人で作られたあとで、追加でクラウドファンディングを始められてた時期でした。
入社試験で立体を初経験 dwarf在籍時のエピソードとメイキング
--いろいろなアルバイトを経てdwarfに入ることになったのは、何がきっかけだったのでしょうか?
篠原:dwarfは、たまたまネットでサイトを見かけたのがきっかけです。伊藤さんのI.TOON(伊藤が代表を務めるアニメーション・スタジオ)は知っていたのですが、コマ撮り業界のことは全く知らなくて。こんなコマ撮りの会社もあるんだと思って「雑務でも何でもやるので仕事ないですかね」とメールを送ってみたら、「近々アニメーターの募集するかも」との返信がありました。
1ヶ月くらいしたら本当にアニメーターの募集が始まったんですよ。それで作品と履歴書を送ったら通ったので、次は実技試験ですね。スタジオに行くと峰岸裕和さんが試験監督で、その前で実演するという試験がありました。先のようにカットアウトとか平面はやったことがあったのですが、立体はその時が初めてでぶっつけ本番でした。
金属関節のアーマチュア(骨組)を歩かせたり走らせたりという試験でした。dwarfもDragonframe(コマ撮り制作では標準のソフト)を導入した頃で、それを使って収録するんです。峰岸さんの試験のやり方としては、モニターを見ずアーマチュアだけに向き合うことになるので、撮影したものをチェックできませんでした。
撮影が終わってから峰岸さんとチェックするんですが、当たり前に失敗してましたね。初めてやったってできないですよ。足が上がってなくて引きずってるような動きになっていて。僕が歩きは「捻挫してるっぽいですね」、走りは「バテてるっぽいですね」と言ったら、峰岸さんが爆笑してました。
その時に採用されたのは僕だけでした。肌が合うと思ってもらえたのかもしれないですね。でもアルバイトからだったので、ずっと採用されてないと思っていました。採用されていたとしたら社員になれるはずだと思っていたので、試験には落ちたのかなと。アニメーターとして育てたいということで入らせてもらえたみたいです。
2年間、師匠となった峰岸さんや先輩のアシスタントとして現場の勉強して、それからコマ撮りアニメーターとしてデビューしました。WEBCMだったのですが、技術的に適したものを振ってもらって。ちょうどその頃は、社内でオリジナルを制作しようという動きになってもいました。
そこで短編『モリモリ島のモーグとペロル』(監督:合田経郎)のアニメーターとして参加することになって、峰岸さんと同じステージで作品を制作するという経験をさせてもらえました。その後もNetflixのショートシリーズ『リラックマとカオルさん』(監督:小林雅仁)にも参加して、運良くやりがいのある大きい仕事が続き勉強になりました。
--平面はともかく立体は入社試験が初だったんですね。制作にDragonframeを使っているとのことですが、撮影後のバレ(撮影時に背景セット内で使った道具など)を消す時にはPhotoshopかAfter Effectsの「コンテンツに応じた塗りつぶし」も使いますかね?
篠原:撮影はDragonframeなんですが、バレ消しはAfter Effectsでやってます。選択範囲で指定した中を消していくやり方で、「コンテンツに応じた塗りつぶし」は使ったことないですね。要らないものを消してくのはいいんですが、影とか影響してくるものまで編集しないといけないので、まだ自動化するには結構レベルが高いかなと思います。
詳しく言うと、まずライトを当てて何も置いていない状態で背景を撮影して、その画像の上に、背景と一緒にキャラクターやタンク(人形を支えるアーム)などをコマ撮りした画像を重ねて、キャラクター以外を消していくってことです。「コンテンツに応じた塗りつぶし」が使えるようなら、手前の画像だけでいいので、かなり楽になりますね。(補足:取材後、使ってみましたが全然だめでした)
キャラクターだけグリーンバックでコマ撮りして、あとで背景と合成する方法もあるんですが、どうしてもライティングとか合成した違和感が出てしまう可能性があります。『リラックマとカオルさん』の時は使い分けてましたね。引きの画じゃなくて、寄りになるキャラクターのバストアップの時なら合成でも良かったりするので。
例えばリラックマたちが室内で過ごしてるシーンで、足の接地が見えていたりとか周りの美術が近かったりするカットだと、影響がスゴく出るのでセットの中で撮らないといけません。でも次のカットでバストアップの場合、カメラのフォーカスがキャラクターに合わせられて背景がボケるので、背景と馴染ませるのに違和感が出にくいためグリーンバックでも撮影できます。
そのように分けた方が効率が良かったりするんですが、現場の空気感としてはテンションが変わりますね。アニメーターもセットの中でやった方が、演技としてやりやすいですから。グリーンバックで何もないところでやると、キャラクターの目線とか、想像力が必要になってきます。