ヒカルの地上波特番が意味するものとは? Guild高橋将一が語る「テレビとYouTuberの関係」

 2021年1月11日、TOKYO MXでYouTuberヒカルをメインに据えた特番『職業カリスマ ~YouTuberヒカルの光と影~』が放送された。ヒカルのYouTubeチャンネルでも同時配信されたことも大きな話題になったが、この新たな試みの裏にはどんなやりとりがあったのか。リアルサウンドでは、ヒカルのマネージャーを務め、宮迫博之、手越祐也をはじめとする多くのチャンネルをエージェントとしてサポートしている株式会社Guildのギルドマスター・高橋将一氏を直撃。その経緯や意義に加えて、高橋氏がプロデューサーに名を連ねるYouTube番組『WinWinWiiin』の現状から、テレビとYouTuberの関係、クリエイターのリスクマネジメントまで、じっくり話を聞いた。(編集部)

高橋将一(たかはし・まさかづ)
株式会社Guildの代表取締役。VAZ副社長などを経て2019年にGuildを創業。同社は日本最大のエージェント型クリエイター支援企業として、YouTubeチャンネルのサポート数は約400チャンネル、年商100億円オーバーと急成長中。YouTuberのヒカルのマネジメントを担当し、協業でアパレルブランド「ReZARD」(年商約30億円)を立ち上げ成功へ導き、プロデューサーとしても宮迫博之、手越祐也など、逆境に立たされたタレントをYouTubeで大復活させた。

ヒカル地上波特番、放送の裏側

ーー年明け早々の1月11日、TOKYO MXで『職業カリスマ ~YouTuberヒカルの光と影~』が放送されました。YouTubeでも同じ番組が同時配信されるという類を見ない試みでSNSでもトレンドになりましたが、どんな経緯で決定した企画だったのでしょうか。

高橋:もともとヒカルさんと宮迫博之さんが大きく売り上げに貢献し、公約どおり二人が出演するテレビCMも制作されたファッション通販会社・ロコンドの田中裕輔社長が、「次は二人にテレビ番組をプレゼントする」と道筋をつけてくれたものでした。ただ、いまは撤回されたものの、宮迫さんは“ホーム”である『アメトーーク!』(テレビ朝日系)以外でのテレビ復帰を考えていなかったため、田中社長的にも「恩返しができていない」という、宙に浮いた状態だったんです。そんななかで、「それならばヒカルさん単独のテレビ番組を作ろう」という話がロコンドさんとGuildの営業責任者の間で進んでいった、という流れでした。

ーー内容としては、ヒカルさんのルーツや、アパレルの展開を中心にまとめられた、初見の視聴者にも優しいドキュメンタリーになっていました。

高橋:そうですね。コアなヒカルファンにとっては知っていることばかりだったかもしれませんが、あえて内容にはあまり触らず、テレビのコンプライアンス、制作会社さんの企画と、こちらの要望を照らし合わせて作っていきました。

ーーもっと尖った内容のものも提案可能だった。

高橋:そうですね。いつものノリだったら「関係の深い宮迫さんと手越祐也くんを出演させてしまえば、とんでもなく大きな話題になるぞ!」というふうに進めるところですが、テレビという、年齢層高めの方も幅広く見られるプラットフォームの特性も考え、「はじめまして」という自己紹介的な内容になりました。

ーーコアなファンにとっては物足りなかったかもしれない、ということですが、テレビでコンテンツを発信してみて、何か発見はありましたか。

高橋:やはり編集のクオリティが高く、親切ですよね。YouTubeの動画は基本的に連続性があり、それまでの経緯を知っている前提で話が進むことが多いので、省略される情報が多いんです。しかしテレビの特番だと、まったく何も知らない人にも伝わるものにする必要がありますから、本当に丁寧に作り込むんだな、と感じました。


ーースポンサーとして番組を“プレゼント”したロコンド社としては、もともとは全国ネットでの展開も視野に入れていたんですよね。

高橋:そうですね。とはいえ、全国どこでも視聴できるキー局でなく、関東ローカル局だからこそ、YouTubeの同時配信と視聴者が棲み分けられましたし、こういう新しいことができたのがよかったと思います。そして何より、この同時配信を“最初にできた”ということが大きかった。「テレビとYouTubeの融合」というのはいまやよく語られることで、元々テレビで活躍されているカジサック(キングコング ・梶原雄太)さんを中心にそういう目標を掲げている方がいて、そのことで何が生まれるのか、という検証はしたかったし、僕も行く末が気になっている一人でした。そういう部分で、会社としてひとつ歩を進めるお手伝いができたのはよかったなと。

ーーテレビ側のコンテンツがYouTubeに出てくるのは珍しくなくなりましたが、YouTuber発信のコンテンツがあれだけ堂々とテレビに流れるというのは、非常に新しいことだったと思います。

高橋:そうですね。最後はロコンドさんの気合いで実現した、ということは間違いありません(笑)。

ーーロコンド社がここまで、ヒカルさんや宮迫さんに力を入れるのは、なぜなのでしょう?

高橋:単純に、テレビCMも含めたこれまでの広告より、ヒカルさん、宮迫さんと取り組んだインターネット広告、動画展開というものが、圧倒的な数字につながったからだと思います。話題性も生まれて、株価まで上がった。そういう数字としての実績は大きいです。最初から、ヒカルさんとのコラボでシューズが1週間で6億円売れるという、社会的にも大きなインパクトのある結果が出ましたし、その後、ヒカルさんが「次の目標を達成したら、宮迫さんと一緒にテレビCMを」と直談判して……という流れも注目を浴びました。例えばテレビでスポット的にPRするのとは違って、ロコンドさんのYouTubeチャンネルも含めて継続的にコンテンツ化することで、視聴者もアーカイブされ、企業自体にファンがつく、というメリットもある。それを実感されたから、ここまでヒカルさんをプッシュしてくれるのだろうと。

ーーいわゆる“ヒカル砲”からの一連の流れですね。

高橋:そうですね。“ヒカル砲”という現象は、正しく見るとヒカルさんだけの影響力を指しているわけではなく、彼がいま持っている状況を最大限にうまく使い、バズを起こしているということです。ロコンドさんのケースでいえば、宮迫さんとコラボを重ねるなかで、CMといえども「テレビ復帰をかけてタイアップ企画に挑む」というストーリーを乗せられたからこそ、考えられないような広告効果を生み出すことができた。ヒカルさん単体でも「テレビCMの出演をかけて」となればファンの後押しはすごいものになりますが、まだYouTubeで芸能人とコラボすることもおぼつかない状況だった宮迫さんのテレビ復帰がそこに乗ると、意味はまったく変わってくる。ヒカルさんは「もうひとつ上のステージに行けたのは宮迫さんのおかげ」と動画でも常々言っていますが、本心で感謝しているんです。

ーー前回のインタビューでも言われていた、ただの広告ではなく「ストーリー」を乗せた動画コンテンツならではの施策が、やはり効果的だったということですね。

高橋:そうですね。従来のテレビ広告はマスに対して大きくリーチするということをベースにしているので、そこに強いストーリーを乗せて、人の感情を揺さぶるものにするのは難しい。その点、YouTubeのタイアップ動画で、それこそ「宮迫さんのテレビ復帰をかけて」というストーリーを作り、そこを起点として人の心に伝わるコンテンツを作っていけば、それがテレビCMやウェブCMに広がったときにも、それに触れた人が動画を見にくるんです。広告業界の言葉で言うと、LP(ランディングページ)の役割をタイアップ動画が果たし、購買につながりやすくなります。

ーーストーリーに関心を持った人が動画というLPに訪れ、商品を購入する。

高橋:そうですね。テレビの視聴者は老若男女幅広く、ターゲットとなる購買層以外の人たちにとって、CMはあまり意味のないものになる。「お水」のCMなら比較的多くの層に共通の関心事かもしれませんが、それが「靴」になれば、80%くらいの人はターゲットから外れると思います。見方によっては、そこに無駄な広告費を使っている、ということになる。YouTubeの場合には、そもそも購買層とペルソナが近いであろうYouTuberがタイアップ動画を作りますし、無駄打ちが極めて少なくなります。インターネットのなかに心を揺さぶるコンテンツを作り、それを広げていくための広告、というのは、テレビCMを代替する新たなパッケージになったと思います。

ーーロコンド社の例は、まさにその効果を証明する成功事例になったと。

「YouTubeからテレビに打って出よう」とは考えづらい

ーーYouTubeからテレビへ、というアプローチは、今後増えていく可能性があるでしょうか?

高橋:いえ、今回のヒカルさんのドキュメンタリーは新しいことだったので非常に大きな反響がありましたが、テレビとインターネットが融合するようなコンテンツ自体がすべてめちゃくちゃウケるかといえば、そうではないと思います。個人的には、面白さを追求するなら圧倒的にYouTubeです。宮迫さんと中田敦彦さんをMCに起用した『WinWinWiiin』もそうですが、視聴者の関心を惹き、スポンサーも引っ張ってこられる面白いものを作るなら、コンプライアンスを過剰に気にせず作れるYouTubeのほうがいい。『WinWinWiiin』については、ゲストが手越祐也さん、西野亮廣さんと続き、第3回目では極楽とんぼの山本圭壱さんに出演していただきましたが、トークの内容がかなり際どく、テレビだったらほとんどカットだったと思います(笑)。『クレヨンしんちゃん』ですら「お尻を出すな」というクレームが入るご時世ですから、そのなかで、テレビでコンテンツの面白さだけを追求するというのは相当難しいことだろうと。ですから、「YouTubeからテレビに打って出よう」とは考えづらい状況です。

ーー今回の特番は、ヒカルさんサイドからすると、普段YouTubeを見ない層に対して、試験的にYouTubeチャンネルの広告を出した、という位置づけに近いでしょうか。

高橋:そうですね。実際、番組の放送に合わせて、ヒカルさんのチャンネル登録者数は2~3万人くらい増えています。これは、彼がテレビと相性がいいクリエイターだ、ということもあります。ヒカルさんのチャンネルは比較的年齢層が高いユーザーが視聴しており、テレビの視聴者層と近い。子どもたちに人気のYouTuberがテレビに出ても、その視聴者がチャンネルにまでアクセスするかというと、そうではないだろうと。

 YouTubeからテレビに出るべき人、という観点からすると、大人向けのコンテンツを作っているクリエイターの方が絶対に向いていますね。逆に、若い世代のファンを多く抱えているクリエイターが、テレビやラジオに注力すると、メディアによってファンが分散され、結果として人気を落とすことにもなってしまうと思います。また、「雛壇」に象徴されるように、テレビ番組は“みんなで作る”もので、特にいまは誰か一人にファンができるような構造のクリエイティブになっていない。そのなかにYouTuberが混ざっても、今回ヒカルさんが獲得したような新規のチャンネル登録者=ファンは生まれづらいですし、だからヒカルさんは雛壇で出演する番組のオファーはすべて断っていて、今回も自分がメインになり、ファンができる可能性がある番組だからやった、というのが大きいですね。『WinWinWiiin』のようにテレビの技術を活かしたYouTube番組というのはあり得ますが、テレビのプラットフォーム自体を使ってYouTuberを活かすというのは、なかなか難しいだろうと思います。

 付け加えるなら、「YouTuberをメインに据えたテレビ番組」というのは、現状ではレアリティがあった方がいいかもしれません。例えば、ヒカルさんとヒカキンさんがコラボする、となったらネットは大騒ぎになりますが、「毎週二人でラジオをやります」となると、1回目以降はトーンダウンしていくでしょう。YouTuberのテレビ出演にレアリティがある、という状況は「融合が進まない」というネガティブなことではなく、「新鮮さが維持される」ということでもあるんです。