『ハイロー』手がける映像作家・久保茂昭の仕事術ーー制作に欠かせない思いとガジェットを語る
EXILEや三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEをはじめとするLDHアーティストのMVや、『HiGH&LOW』シリーズを手がける映像作家・久保茂昭氏。リアルサウンドテックでは、映画監督やMV監督として日々撮影や編集などに取り組む彼の仕事術に迫る。
今回は、久保氏の映像表現が生まれる場所であるデスクを見ながら、映像制作におけるルーティーンや大切にしている思い、制作に欠かせないガジェットや、最新のキーボード・マウスについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)
【記事の最後に久保さんへのインタビュー動画あり】
MV、ライブ映像、映画制作……映像表現で大事なのは“物語を描くこと”
ーー普段、事務所での編集作業と現場での撮影は、どのくらいの割合で行われているのでしょうか?
久保茂昭(以下、久保):現場だとMVの撮影がメインで、大体3日間くらいかかります。前日の準備と、撮影当日、次の日の朝まで、というパターンですね。それが月に2本くらいあって、それ以外の時間は事務所で作業をすることが多いです。
ーー編集作業の時間が長いんですね。
久保:長いですね。仕事において1番時間がかかるのが企画やアイデア出しで、その次が編集です。基本的にはパソコンと向き合って、アイデアを考えていることが多いです。
ーーアイデア出しは、ホワイトボードなどのアナログツールと、パソコンなどのデジタルツールでは、どちらを使うことが多いですか?
久保:両方同じくらい使っていますね。MV制作の場合、まず歌詞と曲をもらって、アーティストやプロデューサーの方から方向性や要望をヒアリングします。そしてホワイトボードに書いたり、パソコンで打ったりして、アイデアを捻り出します。浮かんだアイデアを先方にプレゼンしないといけないので、パソコンでイメージ画像を探したりしますね。
ーー久保さんが監督を手掛けられている映画『HiGH&LOW』シリーズなどは、本数が多く、設定や伏線の張り方など、かなり複雑になってくると思います。アイデアを整理するのも大変ですよね。
久保:溢れ出たアイデアを、それが本当に現実味があるか、物語として生きているか、おもしろいかを俯瞰でまとめて見るために、最初はアナログで書き出したいんです。なのでプリントアウトしたりして、部屋中にアイデアをバババーっと貼っています。だから映画の準備期間は、部屋が全部紙で埋まっていますね。そこから脚本や物語に必要なもの、予算的に実現の可能なものを取捨選択します。そして最終的にはパソコンにまとめて、プロデューサーや脚本家とディスカッションするための資料を作るんです。
ーーアナログとデジタル、どちらも利用されてるんですね。作業をするにあたって、大事にしていることはありますか?
久保:パッと周りを見たときに、自分が好きなエンターテインメントが見渡せる環境を大事にしています。
アイデアって、自分が影響を受けてきたものや、好きなものから生まれることが多いんですよね。うまく浮かばないときは、本棚を見たり、パソコンの中に入れてある自分の好きなものを見て、刺激を受けるようにしています。次のアイデアに繋げるために、事務所や身の回りには、好きなものを置いていますね。
ーークリエイターとしてだけでなく、いち視聴者として影響を受けた作品や資料が周りにあることで、悩んだときのヒントになるんですね。
久保:自分と対比するという意味もありますね。自分が出したアイデアと似たようなものが過去の作品になかったかも確認できます。
ーー無意識に影響を受けていることもありますし、それをそっくりそのまま世に出してしまう危うさを回避できますね。お仕事周りのツールで欠かせないものってありますか? 事務所を拝見すると、この大きなディスプレイが1番目を引きますね。
久保:僕はライブの撮影・編集のお仕事もしているのですが、ドーム規模の撮影となると、カメラが100台くらい回ってるんです。その100台分の映像を一気に見ないといけないので、パソコン以外にモニターが必須なんですよね。1画面に40枚の映像を3レイヤー分並べたり。パソコンとモニターは大切なパートナーですね。
ーーライブ会場ってそんなにカメラがあるんですね!
久保:そうなんです。僕が担当させてもらっているLDHのアーティストはメンバーの数も多いですし、ライブはMVと違って、生ものを空間として立体的に撮影しないといけないので、それだけカメラが必要なんです。そしてその立体感を編集で表現しないといけなくて、臨場感や空気感を伝えるために、いろんなツールを駆使して編集を行っています。
ーー映像を編集する上で、心がけていることはありますか?
久保:映画とMVとライブはそれぞれ全く違うものなのですが、全てにおいて1番大切にしているのは“物語を描くこと”ですね。何を伝えるか、ということです。
MVに関して言えば、たとえばダンスがメインの作品だとしても、僕は歌詞とダンスがどう繋がるかを重視します。歌詞やアーティストたちの生き様をダンスに落とし込んで、ダンスでも物語を描くことを意識していますね。毎回アーティストと入念に話し合って決めていきます。
ライブでも、伝えたいことを伝えるために物語が大切になってきます。2、3時間のライブ空間の中で、アーティストが考えた曲順や演出がストーリーになっていないと、お客さんも何が表現したいかわからないと思うんですよね。そしてそのストーリーが伝わるように編集するのですが、これが1番大変な作業ですね。アイデアと撮影した映像を生かすのも殺すのも編集次第なので、責任重大です。そのために編集ツール、モニター、マウスなど、作業環境を整えるようにしています。
ーーお仕事をする上でのルーティーンってありますか?
久保:MV制作のときだったら、アーティストの過去の作品や、今現在彼らが考えていることなどのリサーチですね。物語を作るにあたって、平面的なものや、点と点を結ぶような作品にはしたくなくて、立体的に考えたいんです。リサーチをした上で、いろいろな方向からアプローチするようにしています。
映画のお仕事のときは、昔の映画監督たちの言葉を集めた本を必ず読んでいます。こんな苦労があったんだ、とかがわかっておもしろいんですよ。
ーー映像制作において、MV、ライブ、映画と、1つの表現形態にとどまらず、幅広く手がけられていますが、それぞれを制作する上での楽しさや魅力を教えていただけますか?
久保:僕の作った映像で、世の中の人が楽しんでくれるのが1番嬉しいですね。MV制作は、自分の一生を捧げるつもりでやっている仕事です。
僕は音楽が世の中を救うと本気で思っているんです。音楽って世界共通で楽しめるものですし、その可能性を信じて、世の中を救うお手伝いができればという気持ちです。映画や映像も大好きなので、音楽と映像が一緒になったMV制作は、一生やっていきたいですね。
ライブはその延長ですが、生ものですから、そこで起きたことをなるべくそのまま、臨場感をもって表現するようにしています。アーティストが表現したいエンターテインメントを、よりわかりやすく伝えることも大事ですね。映像ならではのおもしろさにもこだわっています。
映画はまったく別物で、僕はまだ新参者なんですが、究極のエンターテインメントですね。物語、音楽、映像、芝居と、すべてがミックスされていて、制作サイドが少しでも気を抜くと、見ている人はそれに気がついてしまうんですよ。世の中の人が、1番いろんな視点をもって鑑賞するエンターテインメントだと思います。
映画はすごいとしか言いようがなくて、映画を作っている人を本当に尊敬してます。僕は監督なので、本当はそういった姿勢を表に出さない方がいいんですけどね。スタッフをリスペクトしすぎると、監督としての立場が弱くなって現場がまとまらなくなります。最近はちょっとずつ気持ちをコントロールできるようになってきました。