放送作家・白武ときおが語る“音声メディアの未来” YouTubeラジオ局『PILOT』立ち上げの意図とは
『しもふりチューブ』 『みんなのかが屋』『ジュニア小籔フットのYouTube』『ララチューン』など、数々の芸人のYouTubeを担当する放送作家・白武ときお。“YouTube放送作家”という道を切り開いた彼は、精鋭のメンバーとともに新たにYouTubeで配信を行うラジオ局『PILOT』を立ち上げた。
この『PILOT』は、制作チームのメンバーをクラウドファンディングで一般の人から募集するという斬新な取り組みも行っている。今YouTubeでラジオを発信する意味とは何なのか。クラウドファンディングで新しいチームをつくる狙いとは。彼が見据える“音声メディアのこれから"を軸に、その理由に迫っていく。(リアルサウンド編集部)
白武ときお(しらたけときお)
1990年12月17日生まれ、京都府出身。著書『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社)。担当番組は『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』『しもふりチューブ』他、多数参加。プランナーとしてコンテンツスタジオのCHOCOLATE Inc.にも参加。
チームをつくるときは様々な能力を持った「麦わらの一味」みたいな集団にしたい
ーー『PILOT』はどういった経緯で立ち上げられたのでしょうか。
白武ときお(以下、白武):今アメリカでは音声コンテンツに関わるビジネスが盛り上がっていて、その流れで日本でも音声メディアがいくつか立ち上がってはいますが、まだどこも覇権を握れていないと思います。そんな中で、僕がYouTubeに詳しそうな放送作家だというところから、ネットラジオや音声デジタルコンテンツの話が舞い込んできました。1人では何もできないので、ラジオが好きでラジオのノリがわかる人や、ネットの感覚に長けた若い人たちと制作チームを組んで、YouTubeでラジオ局を立ち上げれば新しい面白いものができるではないかと思い、スタートさせました。
ーーなぜ単純な募集ではなく、クラウドファンディングサイト上でメンバー募ったのでしょうか。
白武:お笑い芸人だったら吉本興業のNSCとか、放送作家やラジオディレクターだったら専門のスクールとか、なりたい職業について学ぶ場所はたくさんあります。そのなかでもより気軽に参加できることを目的として、月額1000円でラジオ制作に関われる場所を作りました。仕事を辞めてまでは参加できないけど、並行して学んでもらう場所があればいいなと。あと、クラウドファンディングサイトにも興味があったので利用しています。学びの場としてメンバーのみんなで少しずつ能力を高め合って、最終的にはどんなメディアに出ても力が発揮できる1つの制作チームがつくれたらと思っています。
ーー現状集まっている制作チームのメンバーは、どういった方々で構成されているのでしょう?
白武:ラジオ番組とかYouTubeの動画ってどうやって作っているんだろうとか、そういう興味本位で参加している人もいますし、構成作家やラジオディレクターなど、現実的なキャリアのスタートとして入っている人もいます。様々な人がいることで、僕が知らない、出会えていないトークが面白いタレントさんや芸能人の方を教えてもらっていて。『PILOT』は「意外な組み合わせの2人の喋りがみたい」というところから企画が生まれるので、あまり詳しくない分野の方のことを知れるのは面白いですね。
ーー主催のメンバーであるラジオディレクターの越崎恭平さん、映像作家の柿沼キヨシさん、映画プロデューサーの雨無麻友子さんは、それぞれの領域で力を発揮されている方々です。なぜこのメンバーで『PILOT』を立ち上げようと思ったのですか。
白武:僕はチームをつくる際、『ONE PIECE』の「麦わらの一味」みたいにそれぞれ違う能力を持った人と組むことが多いです。そうすることで、つくるコンテンツに新しい展開が生まれると思います。柿沼さんだったら音声メディアに映像という目で楽しむめる仕掛けを施してくれたり、雨無さんだったら映画関係や俳優さんに明るく新鮮なブッキングができたり、越崎さんはラジオディレクターとして若手のトップランナーで、どんな案件でも面白くまとめあげてくれます。僕と同じ放送作家が4人集まったとしたら、狭い内容になりがちですが、各々違ったプロフェッショナルが集まることで、つくれるものの可能性が広がるかなと。
YouTubeの「アーカイブ性」が初めて聴くラジオを面白くする
ーー『PILOT』で制作されたラジオ番組を「地上波ラジオ局に持ち込む」という可能性もあると伺っていますが、地上波とYouTubeでのラジオ番組の違いは?
白武:地上波の電波に乗るのは、露出が増えるため新たな視聴者に出会える一方で「そこでしか聴けない」という形式がもったいないと思います。周波数を合わせて、その時間に聴くというハードルが高い。YouTubeのようにアーカイブを残していつでも誰でもタッチできる状態が理想的だなと思っていて。だから『PILOT』の番組が地上波で放送された際には、そのあとYouTubeにも番組を公開して、いつでも聴けるような状態にしていこうと思っています。
ーーアーカイブに残っていれば、初めて聴くラジオでも過去の放送を振り返ることができますね。
白武:そうですね。10年とか、長い間続いているラジオって初めて聴くと知らないワードが溢れていたり、知らないノリがあって、初見殺しというか、参入障壁がありますよね。アーカイブがあれば遡って過去の放送回が聴けて、今日から聴き始めても面白さについていける状態をつくることができます。
また、動画につけられたコメントが全て見られることもメリットだと思います。ラジオだとパーソナリティや作家が厳選したメールしか放送されないので、どんな人が聴いているのか、リスナーの全体像が見えにくい。でもYouTube Liveなど生でラジオを配信したら、流れてくるリスナーのコメントを全て見ることができます。言ってしまえば、面白いコメントも面白くないコメントも両方見られる。そのなかからどのコメントをピックアップしてトークに持ち込んでいくのか。芸人やタレントの選球眼も余すことなく見ることができます。同じ生放送でも、より嘘がつけない状況が面白いなと思いますね。ハガキ職人のように「コメント職人」が生まれてきます。
あとはリアルタイムでどれくらいの人が自分と同じように視聴しているのかが目に見えてわかる楽しみもあります。そのコンテンツが盛り上がってツイッターでトレンドに上がるように、リアルタイムで面白いものを見ているんだ、聴いているんだという感覚を共有したいという欲求があると思ってて。YouTubeの生配信は具体的な人数を知ることができてよりその臨場感に触れられます。
ーーそう考えると、やはりYouTubeチャンネルを持つことは、タレントがファンを増やすにはかなり有効なのでしょうか。
白武:そうですね。芸能人がYouTubeチャンネルを持つことは、映像を使ったセルフプロデュースを可能にします。ブログやツイッターは文字に依存しているので、ビジュアルで見られる方が情報量が多いと思いますし。
あと、スピード感も重要です。昨年の『M-1グランプリ』では、決勝の直後に感想や考察の動画が上がっていました。事前にテレビで放送されて話題になることの裏側を押さえて、終了後即座に配信する。視聴者の見たいと思う部分をうまくついている連動のさせ方ですよね。
今までは、M-1の裏話とか後日談はラジオで話す芸人さんがメジャーでした。でもラジオだと収録や放送日を待たなければならない。多くの人がM-1の話をしたあとでは遅い。YouTubeなら自分のタイミングですぐ出すことができます。これからは「一番おいしい話をYouTubeで初めておろす」という感覚が根付いていくかもしれません。YouTubeのクリエイティブチームを持っているかどうかも、今後の芸能活動を左右してくのではないかと思います。