「アニメーションMV」急増の理由は? 映画楽曲とコラボしたVRMVなど手掛けるパンケーキ・迫田祐樹&ウツツ・石川剛史に聞く

 長編やテレビシリーズといった尺の長いアニメ作品が活況を呈する一方、MVやCMといった尺の短いアニメ作品の動向にも注目が集まっている。

 なぜ、アニメーションMVやCMはここにきて増加の傾向へと向かっているのだろうか。今回はアニメーション企画制作会社・パンケーキ株式会社(以下、パンケーキ)の迫田祐樹氏(代表取締役)と、制作ユニット・ウツツの石川剛史氏(CGクリエイター)を取材。斬新な演出が目立った映画『泣きたい私は猫をかぶる』の楽曲とコラボしたVRMVを制作した2人が考える、アニメーション制作におけるデジタル化の進行度と、コロナ禍での影響とは。

パンケーキの設立に至る経緯 デジタル化の推進と映像作家の躍進

--パンケーキはツインエンジングループとして2019年に設立されましたが、改めてそこに至るまでの経緯をお聞かせください。

迫田:もともと僕は広告代理店に勤務していて、アニメ業界にいたわけではありませんでした。外から情報をキャッチアップしていく中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)がもっとアニメ業界に普及していって生産効率や収益構造が変化したら、クリエイティブに良い影響がありそうだと思ったのが、パンケーキを設立するに至ったそもそもの発端ですね。

パンケーキ株式会社 代表取締役 迫田祐樹氏

 もともとパンケーキを設立する3年ほど前に、スタジオコロリドの宇田(英男・ファウンダー)さんにコンタクトを取ったことがあったんです。コロリドも今はツインエンジングループで、長編映画も制作する大きなスタジオになっていますが(※編注:学生時代に『フミコの告白』などで有名だった石田祐康監督も所属)、当時から掲げていたデジタルを促進していくことや、アニメーターに良い環境を提供するといったことの理念がスゴくいいなと思ったんです。その時からの関係が今の繋がっています。

 アニメ業界のDX化という文脈ですと、ワコムの轟木(保弘)さんも相談に乗ってくれました。轟木さんは、クリエイターやプロデューサーや企業をつなぐハブのような感じですね。

 パンケーキ設立後は、DXを促進しながら、後ほど話すMVの制作や、アニメ監督のりょーちもさんとのオリジナル作品制作、映像作家の塚原重義さん(※編注:学生時代に『ウシガエル』などで有名。パンケーキでは『クラユカバ』を制作中)とオリジナル作品を作っています。ちなみにこの「映像作家」というキーワードが、MVにアニメーションが増えていった理由と大きく関わってくると思っています。

--石川さんのパンケーキとの関わりは、どういった経緯でしょうか?

石川:僕はフリーランスで、映像ユニットのウツツというものもやっています。パンケーキと仕事をするきっかけは、りょーちもさんが声をかけてくれたのが最初ですが、最近は制作を共にする機会が多くなってきました。迫田さんがイメージしている今後のアニメ像に共感しています。

制作ユニット・ウツツのCGクリエイター 石川剛史氏

Unityを使用したVRのMV アジャイル型でアニメーションを制作

--今年パンケーキで手がけられた案件は様々ですが、VRを使用したMVを制作されていたのが印象的でした。

迫田:KDDIが自社の5Gプラットフォーム「VROOM powered by au 5G」を展開する一環として媒体内で流すコンテンツを作る企画として始まりました。結果的に映画『泣きたい私は猫をかぶる』の楽曲であるヨルシカさんの「花に亡霊」と「夜行」をBGMとした、オリジナルVRMVを制作させていただきました。前者はりょーちもさん、後者は石川さんが演出を担当しています。

映画『泣きたい私は猫をかぶる』VR MUSIC VIDEO ~SONG BY ヨルシカ「夜行」~(Short ver.)- VROOM

石川:最初は『泣き猫』の制作も手掛けたスタジオコロリド版のMVをVR用に昇華するような設計をしていたんですけど、MVそのものと映画、どちらにフォーカスするのかで迷っていました。後者に決まってから、この楽曲を聴く状況を考えると、仕事帰りに電車の中で聴くと沁みるというのがあって、最終的には電車のシーンだけで全編通すことになりました。

 それでもVRでストーリーを伝えるのは、普通の映像で伝えるのと全然違うように感じました。VR空間にいる場合、ある程度どこにいるのか誘導はできても、強制できないんです。映像の手法的に使えないものも多いので、もっと想像させる方、感じてもらいたいことにシフトして、音楽とマッチさせていくと見ていて気持ち良いのではないかと考えていったんです。

--実際にVRで制作してみて、どのような感触がありましたか?

石川:前述のりょーちもさんが手掛けたVRMVにも参加していたUnityエンジニアの高橋(株式会社桜花一門)さんと作り始めました。それからウツツのメンバーの松本(八希)さんにも入ってもらって、僕が演出で松本さんにルックを制作してもらうというようにしました。とても短い期間だったのに、この3人で360度の作品を制作できたのがスゴかったです。

 Unityは3DCGソフトのMayaに近いところがあって、全体を仮素材で設計していきつつ、どんどんクオリティーを上げていって完成させます。コラボレートというクラウドでデータを同期できる機能があるのと、リモートで画面を共有しながらできるのとで、本当にシームレスで距離を感じません。色々と試すハードルが下がって楽しかったです。

迫田:アニメーション制作は設計図に沿って流れていくウォーターフォール型なので、プロトタイプを作ってみんなで確認して修正する、みたいなアジャイル型にしにくい構造なんです。ゲームエンジンはまだほとんどアニメ制作会社では使われていませんが、UnityやUnreal Engineを使うとこういったアプローチが取れてとても革新的であるとは思います。

 VRコンテンツという話をすると、一般的にはゲームのような能動的なコンテンツが多いですね。アニメーションとの食い合わせもまだ最適なポイントを見つけられておらず、受動的なコンテンツを求める観客に対しての最適解は提示できていない。しかし、そこを追求することに未来を感じるところもあるし、今回のVRMVは石川さんのセンスの良さもあって、受動的VRコンテンツとしてもかなり見応えのあるものになったと感じています。

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