農業用語が頻出する斬新なゲーム『天穂のサクナヒメ』 「稲作が戦闘に作用する」ゲームデザインの巧さに迫る
2020年11月12日、インディーズゲームサークル「えーでるわいす」が開発した『天穂のサクナヒメ(てんすいのさくなひめ)』がNintendo Switch・PS4・PC向けにリリースされた。本作は次世代ハードであるPS5と同日の発売でありながら、稲作パートの奥深さや独自のゲームデザインによってSNS上のトレンドをかっさらった作品だ。今回はこの意欲作の魅力に迫っていく。
農業用語が頻出する本格的すぎる稲作パート
本作の公式ホームページを確認すると、ゲームとしてのジャンルは「和風アクションRPG」となっている。もちろん、本作ではアクションパートもじゅうぶん魅力的ではあるが、実際には稲作パートの比重が大きく、農業シミュレーションゲームとしての要素がかなり強いといえる。
そもそも、一般人がお米作りに必要な工程として認識しているのは「田植え」と「収穫」のふたつぐらいだろう。しかし、本作ではそれ以外にもお米作りに関わる細々とした作業をいくつも行っていくことになる。
たとえば、米が入った籾殻はすべて田に植えるわけではない。収穫する米の品質を上げるためには、「泥水選(でいすいせん)」によって良い籾殻と悪い籾殻に分ける必要がある。また、籾殻はすぐ田に撒くのではなく、「育苗箱(いくびょうばこ)」を使ってある程度の大きさまで育てなければならない。このような稲作に関わる専門用語が多数登場し、それらを理解することで米の品質を向上させられるのだ。
その他にも田に水を引き入れる量を調整したり、肥料を生成したりといったポイントも米の品質に影響を与える。中には殺虫効果を含む農薬のような肥料もあるが、稲田をどのように管理するかはすべてプレイヤーの手に委ねられている。あまりにも稲作パートが本格的であるため、農林水産省のQ&Aページが本作の攻略サイトとして一部機能してしまうほどだ。
では、プレイヤーはどのようにモチベーションを高めながらこの本格的な稲作パートを進めるのだろうか? ここで、「稲作の成果が戦闘に影響を及ぼす」というゲームデザインが肝になってくる。
豊穣の神たる「サクナヒメ」は良質な米を作ることによってステータスを伸ばしていくため、稲作パートを丁寧に進めなければいつまでも強敵を倒せるようにはならない。また、収穫した米を加工すれば食事のレパートリーが増えることも、ステータスの底上げにつながる。さらに、ゲームを進行すると少しずつ稲作に関わる新技術が開発されていくこともプレイヤーのモチベーションを高める要素だ。延々と同じ稲作を繰り返すのではなく、少しずつ便利になっていく様子はクラフト系のゲームにも通ずるものがあるだろう。