『Oculus Quest2』はVRデバイスの役割を変化させる? 機能や販売戦略から“エンタメに与える影響”を読む
いままで、VRでエンタメを展開する際に、コミュニケーション要素、ソーシャル性を入れるというのは大きな挑戦でした。それは、HMD所有者という母集団がそれほど大きくないため、過疎化というリスクを受け入れる必要があったからです。
しかし、Facebookが莫大な資産を使って「みんな」にVRを普及させた場合、どうでしょう。ディベロッパー達は、もっと気軽にコミュニケーションを前提としたエンタメに手を出せるようになるのです。
人とのコミュニケーションというのは劇薬のようなもので、あらゆるエンタメを一気に魅力的にします。それは、“コミュニケーション”自体が心惹かれるエンターテイメントだからです。私のようなネットコミュ障を除き、世間のマジョリティがNPCとの戦いよりPvPでの銃撃戦を好むのは、ゲーム市場の推移を見れば明らかです。
そうであれば、VR以外のエンタメが過去何年もかけて辿ったように、VRエンタメもソーシャル性を持ったものがメインストリームになっていくでしょう。今後数年でVR版の『Dead by Daylight』(のようなもの)や、VR版の『Fall Guys』(のようなもの)が出てくることは想像に難くありません。
この傾向は、間違いなくVRの普及を後押しします。かつてLINEで連絡を取るために友達にスマホを勧める人がいたように、『Population:One』を一緒に遊びたいからといって友達にQuest2を勧める人が出てきます。
一方で、コミュニケーションを前提としてないVR表現というものも、もっと加速していくでしょう。そして、そこで要求されるレベルは一段階上がります。VRにおけるコミュニケーションが当たり前になったとき、コミュニケーションを前提としないエンタメには相応の強度が求められるようになるのです。
例えば今後VRで単純なレーシングゲームを出すときに、オンラインモードが無いということは考えづらくなってきます。もしオンラインモードを実装しないとしたら、それを正当化するだけの他の要素、例えばストーリーや世界観などが求められるということです。
しかしVRにはまだまだ、このハードルを乗り越えていくだけの余地が残されています。VRというのは「動画」以来の、人類が表現をする媒体の大きなパラダイムシフトです。そういった時間軸で考えると、まだまだ我々はエンタメを含むVRでの表現探究の入り口に立っているに過ぎません。Quest2の登場による盛り上がりで新たなクリエイター・アーティストが登場し、今まで考えもつかなかったような表現が生まれてくるのを、心から楽しみにしています。
私の周りでも、今までVRに縁が無かった人たちが、ちらほらとQuest2を買い始めています。
VR HMDが家にあることが珍しくなくなる時代がきたのかもしれません。今度こそ“VR元年”がはじまったのです。
■水谷 享平(Twitter)
東京大学大学院工学系研究科卒。2012年、Google Japanに入社。モバイルアプリ開発者向けの技術コンサルタントを務める傍ら、20%プロジェクトとしてVR/ARの普及活動やコンサルテーションなどを行う。
2018年にプロダクトマネージャーとしてPsychic VR Labに入社。翌2019年4月に執行役員に就任。STYLYのプロダクト開発全般に携わり、プロダクトマネージャーとして幅広いSTYLYのサービス全体を担当。多数行われている社内の開発プロジェクトのプロジェクト管理も行う。開発メンバーの採用、社内組織再編や、外部企業とのプロジェクトにも携わり、渋谷PARCOにて展開されている「SHIBUYA XR SHOW CASE」ではプロジェクトリーダーを務める。
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