『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』 “カワイイは正義”を支える運営の心構えと愛情

製品への愛情を育てていく、良いゲームを生み出していく心構え

 

バグ報告の質の向上やテスト工数の削減を試みて対応。

 また本作の運営のイメージとして阿部は「基本的にマラソン」と例えた。「家庭用のように締め切りが決まっており、それに向けてそれさえ乗り切れば発売できるという場合であれば、最後の方にすごく頑張っても全然問題ないものの、運営は非常に長く続いていくもので、100mダッシュを何本もやってしまうと残りのマラソンみたいな距離を走るのは無理である」とのこと。それから阿部は「運営としては作業も締切と新作とバグ対応が同時に発生するため、後々バテてしまうような仕事のやり方はタブーかなと思う。ただ緊急時にはこのルールは適用されない」と付け加えた。

 運営におけるスケジュール管理については「生き物のような感じ」と例えた。阿部は「常に必ずスケジュールに差し込みが発生するため、予定を立てたとしても必ず変わってしまう。運営の管理で一番大事なことは、今どれだけの作業を差し込めるか、余裕があるのかというのを把握するためのもの」と考えているそうだ。

「ソウルシステム」がスケジュール管理や効率化の礎に。

 効率化については常に考えており、阿部は「運営ではどんどん新しい仕様や実装していくものが増えていくため、何もしないと全体の作業量が重くなっていく傾向にあることから、セクションリーダーは常に次セクションのフローを見直していく必要がある。運営が始まってしまうと根本の部分を変えるのは非常に厳しいが、他セクションに迷惑がかからない、次セクションの細かい部分であればいくらでも変更はできるかな」と思案した。

「ソウルシステム」がないと大量生産は無理。

 その取り回しについても、阿部は注意点として「少し滞ってきたように感じたら、おそらく仕様改善する必要がある。実際にここが手遅れになると、負のスパイラルに発展してしまうことがある」と言及。さらに「効率化がどんどんうまくいけば、通常どうしても効率をあげられなかったところにも、しっかりと時間を回すことができる」と利点を挙げた。

 最後に阿部は、お客様(ユーザー)を大切にしつつチームや自分たちのことも大切にすることについて、「運営側がコストも顧みず、自己犠牲的な働き方をしたら何が起こるのかというと、まず人が辞めていくかなと思う」と述べた。続けて「もし人が辞めてしまった場合は補充が必要になるが、そこで発生するのが教育コスト。これまで多くの時間をかけて育ててきたスタッフがいなくなるということは、新しく入ってきた人にも同程度の時間をかけて辞めていったスタッフの代わりになるところまで教育する必要がある」と、欠員に関する対応にも触れた。

新規スタッフはライブを観覧して責任感やモチベーションを培う。

 その教育自体はセクションリーダーが行うことが多いようだが、阿部は「そこに時間を取られ過ぎてしまうと、リーダーがボトルネックになってしまうことがあり、気がつくと自分のチームが回らなくなっていたということも起こりかねない。運営は基本長いものなので、人員の入れ替わりを極力少なくすると、最もプロジェクトの安定につながる」と話を終えた。最後は、阿部がこの日残した総括の言葉で原稿を終えたい。

「過去のことを振り返ってみると、一番ゲームを良いものにしてくれたのはそのゲームが大好きなスタッフだったかなと思う。これまで色々お話してきたが、スタッフの関わる製品への愛情というものを育てていくことが、良いゲームを生み出していく一番の近道なのかな」(阿部)

■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画)、「激変!アニメーション環境 平成30年史+1」(著書)など。

CEDEC2020
『Brand New 大量生産!』ミリシタにおけるキャラクター量産への取り組み
『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』

 

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