Spotify CEOの“炎上発言”から考える、アーティストとビジネスパーソンの「異なる思想」

Spotify CEOの炎上から考える“価値観のズレ”

 2020年第2四半期の決算報告において、800万人の新規サブスクリプション加入者、1300万人の新規月間アクティブ・ユーザーを獲得したことを報告したSpotify。これにより、サービスのサブスクリプション加入者数は、第2四半期末時点で1億3800万人を記録し、月間アクティブ・ユーザー数は2億9900万人へと到達した。

 また、第2四半期におけるSpotifyの売上高は18億9千万ユーロ(約2347億円)で、前年同期比13%増(営業損失は1億6700万ユーロ、純損失は3億5600万ユーロ)となり、この結果を受けて同社は株主当ての書簡にて、「事業が新型コロナウイルス感染拡大に伴う不確実性が続いているにも関わらず、高水準を維持している」と報告。ライブビジネスをはじめ、音楽業界が苦境に立たされるなか、そのレポートからは事業の好調ぶりをうかがわせる。

 しかし、このような財務結果が発表された後にMusic Allyが行なった、Spotify CEO・Daniel Ekへのインタビューにおける発言の内容が、アーティストや音楽のファンからの反感を買い、物議を醸すことになった。

 その発言とは、かねてからSpotifyに対して寄せられてきた同社に対するアーティストへのロイヤリティ支払い額が少ないという批判に対して、Daniel Ekが返した自身の見解だ。

 Daniel Ekは、批判に対して「全体的なストリーミングの規模が成長しており、ますます多くの人がそこに参加できる一方で、非常に限られた数のアーティストに焦点を当てる傾向がある」ことをまず指摘。続けて、「今日、我々の市場でも、文字通り、何百万組ものアーティストが存在している。報告される傾向がある意見は、不満がある人々によるものであることが多いが、実際に話している人を見かけることはほとんどない。これまで、Spotifyの中で、『ストリーミングから得られる収益に満足している』と公に発言したアーティストは見たことがないと思う。プライベートでは何度も言っていても、それを公で発言する動機がないからだ。しかし、データを見る限りでは、ストリーミング収益だけで生活できるアーティストが増えているのは明らかだ」として、現在は実際にはストリーミングで十分な収入を得ているアーティストが増えていると主張している。

 また、「過去に上手くいっていたアーティストの一部は、3〜4年に一度音楽をレコーディングするだけでは、未来的な状況において、十分な成功はできないことが明らかだ」と語り、「こんにち成功しているアーティストは、ファンとの継続的なエンゲージメントを生み出すことが重要だと気づいている。アルバムのストーリーテリングや、ファンとの対話を続けることに力を入れることが重要だ」と、ストリーミングによって市場が変わった音楽ビジネス業界では、過去のビジネスモデルに執着したままでは今後の成功は難しいという見解を示している。さらに、新しいビジネスモデルの成功例、つまり、”ファンとの継続的なエンゲージメント”の結果、その恩恵を受けたアーティストの実例を挙げ、「ストリーミングで上手くいっていないのは、主に、以前のリリース方法で音楽をリリースしたがっている人たちだと思う」と語っている。

 しかし、発言を批判するアーティストや音楽ファンの多くは、「これまでのように3〜4年に一度音楽をレコーディングする形では今後は成功することができない」という部分を「アーティストが生活するために、作品の質よりも音楽を大量生産しろというのか?」という意味で解釈し、怒りを露わにした。

 この批判は、そもそもSpotifyへの一般ユーザー・アーティストが持つ”ロイヤリティ支払い額が少ない”という認識がきっかけになっているといえる。

 現在知られている「Spotifyのロイヤリティ支払い額が少ない」といわれる理由のひとつは、これまでにメディアが公開してきた1再生あたりに支払われる再生単価の低さにある。これは調査機関やアーティストの発言などを元にしたあくまで推定値ではあるのだが、1億人を超えるサブスクリプション加入者を抱えてはいるストリーミングサービスの巨頭といえるSpotifyの再生単価は、他の競合サービスと比較した場合、低い結果となっている。

 下の図を見てもらえればわかると思うが、例えば日本ではサービスが提供されていないTIDALの再生単価が0.01284ドルであることに対し、Spotifyの再生単価は0.0037ドル。最大のライバルであるApple Musicの再生単価が0.00735ドルであることと比較しても、少ない額になっている。

各ストリーミングの再生単価一覧
画像:https://www.digitalmusicnews.com/2018/12/25/streaming-music-services-pay-2019/より

 これは、Spotifyの再生単価が無料ユーザーとプレミアムユーザーで異なることが関係しているのだが、あくまで推定値とはいえ、業界トップクラスの規模を誇ること、事業の好調ぶりを考えると、傍目にはどうしても支払いを渋っているような印象を受けてしまう人は多いことだろう。

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