『Apex Legends』人気の要因は「設定の緻密さ」と「二次創作文化」にもあった?
このように、様々な「断片的な情報」を元に、プレイヤーは次に何が起ころうとしているのかを予想したり、あるいは提示された情報から物語の謎の答えを考察する。これを各レジェンドの視点でそれぞれ展開していくことで、未だ謎の多い『Apex Legends』の全貌が少しずつ見えてくるのである。余白が多いからこそ、考察はより面白さを増していくのである。全くジャンルの違うゲームではあるが、フロム・ソフトウェアの『ダークソウル』シリーズや『Bloodborne』に近いアプローチと言えるかもしれない。一方で、シーズン2以降では各レジェンドの物語をモチーフにしたイベント開催時や、新レジェンド登場時、物語の一部を描いた短編アニメーション『アウトランズの物語』をYouTube上で公開するという取り組みも行われており、こちらも世界観を補完する上で重要な役割を果たしている。
これらの物語はあくまで架空のものであり、ともすれば各レジェンドについてファンタジーのように現実離れした物に感じる人々も多いだろう。勿論、本作の物語はそもそも現実とは異なる架空の宇宙空間で行われる。しかし、その一方で、各レジェンドのバックグラウンドについては、多種多様な現実の国や文化を取り入れた物が多いのも本作の特徴である。例えばオクタンの本名、Octavio Silvaはスペイン語圏で用いられる名前であり、ゲーム中には時折スペイン語を話す場面もある。また、クリプトの本名は박태준(パク・テジュン、Tae-Jun Park)と韓国系の名前で、こちらもゲーム中に韓国語を話したり、あるいは彼が参戦する以前を描いた映像に映るポスターや街の光景で韓国語が多く見られる。勿論、『Apex Legends』の世界にはスペインも韓国も存在しないので、あくまで参照元として存在するだけなのだが、参照するからには、という事で彼らを演じる声優もまた同様に同じルーツを持つキャストを起用しており、丁寧にレジェンドが創り上げられていることが分かる。
さらに、ブラッドハウンドが信仰する神々は北欧神話にルーツを持ち、ジブラルタルがキャラクター選択画面で踊るダンスはニュージーランドのマオリの人々の伝統的な踊りである「ハカ」だったりと、ただ様々な言語や人種を集めるだけではなく、そこにある文化も参照することでレジェンドを特徴付けている。結果として、どのレジェンドも、仮にアビリティが無くとも実に個性豊かなメンバーが揃っており、その存在にリアリティを感じることができる。そして、それぞれの文化を交差させることでより奥深い世界を実現しているのだ。
ローンチ当初から丁寧に、まるで壮大なパズルのように構築してきたゲーム全体の設定と各レジェンドが抱える物語、そしてレジェンド一人ひとりの存在にリアリティを与えるためのキャラクターの作り込み。さらにそのレジェンド達が必ず複数人で参加するというゲーム性が見事に噛み合い、唯一無二で魅力的な世界観を持つようになった『Apex Legends』。だからこそ本作は、ファンアート文化を活性化させるほどに多くのプレイヤーを魅了しているのではないだろうか。
後編では、シーズン4以降で実施されたストーリーテリングにおける極めて大胆な試みを元に、さらに本作の魅力を掘り下げていく。
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura