劇団ノーミーツ主宰・小御門優一郎が語る“オンライン演劇の可能性” 「この状況だからこそ生まれる物語がある」

 4月9日、Twitter上にUPされたひとつの動画が、たちまち話題をかっさらった。その画面に映っているのは、Zoomで楽しく談笑する男女4人。次第に画面には不穏な空気が漂ってきて、ホラー的な展開が見るものの心をざわつかせた。この動画は実際に起きた事故なのか、それともフィクションなのか。そう困惑させられた人もいたが、その後もZoom上で撮られたいくつかの短編作品がUPされるなかで、彼らが「劇団ノーミーツ」なる“フルリモート演劇集団”であることが明らかに。

 その後、5月23日には劇団初の有料生配信公演も成功させた劇団ノーミーツ。劇団の発足経緯から、“有料配信”に踏み切った理由、長編作品で“タイムリープもの”を扱ったワケ、次回公演の構想まで、演劇・脚本を務める主宰の小御門優一郎氏に聞いた。(原航平)

「オンライン演劇でも興行が成立する希望を見たかった」

――まず、劇団ノーミーツの発足経緯を教えてください。

小御門優一郎(以下、小御門):劇団の主宰は僕を含めて3人いて、企画・プロデュースを務める広屋佑規は、野外ミュージカルやイマーシブシアターを手がける「Out Of Theater」という没入型ライブエンタメカンパニーの代表をしている人。もう1人の林健太郎は、映画会社とフリーランスでプロデューサー兼映像監督として活動しています。

 彼らはもともと知り合いだったんですが、コロナの影響で広屋も林も現場の仕事が飛んでしまっていて、「Zoomを使って何か作れないかな」って話していたんですよね。そんなときに大学の同級生だった林から「一緒に何かやらない?」って僕にも連絡があって、Zoomで集まったのが始まりです。僕も映画・演技業界で働きながら「21g座」という劇団を主宰している立場の人間だったので、エンタメ業界の現状を憂う気持ち、「何かできないかな」という気持ちが合致して。そこで「オンライン演劇をやってみよう」という話になりました。だから実は、広屋とは対面で会ったことがまだありません(笑)。

――劇団を立ち上げるスピード、バズるまでの時間がとても早かったように思います。

小御門:そうですね。初めて集まったのが緊急事態宣言(4月7日)が発令されてすぐのころで、1作目(『ZOOM飲み会してたら怪奇現象起きた…』)をTwitterにUPしたのが9日でした。最初は脚本とか書かずに僕が以前から関わっていた劇団のメンバーをZoomに呼んで、オンライン上ではどういうやりとりが実現するのかなとか、バーチャル背景などのZoomの仕組みを理解しながら実験的にアイデアを抽出していって。それでホラー作品が割と相性がよさそうということになったので、早速一発目を撮ってみたという感じですね。


――これほどのバズりは予想していましたか?

小御門:いや、それが全くです(笑)。一発目から実験的に怖々とUPしていましたし、インフルエンサーとか有名な俳優が出てるわけでもなかったので。でもそのころはZoomを使ったあるある動画みたいなのがまだ少なかったのと、私たちの知名度が低かったことも結果的に功を奏して「本当にそういうことが映っちゃった事故映像なのかな?」って思われて広まった部分もあると思います。「本物なのか作り物なのかわからない映像」という部分はこちらも意識して作っていました。

――それから短編作品を何本かUPして、YouTubeチャンネルも開設し、5月23日・24日に行われた劇団初の有料生配信公演へとつながっていきます。“収益化すること”についてなど、どういうビジョンを持って続けていましたか?

小御門:最初はほんとに収益化のことも全く考えてなくて、「大人の部活みたいなだね」って言ってただ楽しんでいましたね。それがありがたいことに多くの人に観てもらえて、メディアでも取り上げてもらえたり。そうなると、「ただのバズり屋さんで終わっちゃうのは嫌だな」と思い始めたんですよね。ちゃんと長編作品もできるってことを証明したかった。それで4月半ばくらいには企画がスタートして、有料生配信公演に向けて準備を進めていきました。一回一回のステージに緊張感がある、より演劇に近いものをやってみたいと話していて。

 ここでも「無料にするか有料にするか」はすごく議論しましたけど、ビジネスモデルというか、興行として成功する先例がないとこの先続けていくのはしんどいよねという話になって。エンタメ業界のロールモデルというよりは、「オンライン演劇でも興行は成立するんだ」と、我々自身が希望を見たかった気持ちが大きいです。

「構成は王道にしたくて、“タイムリープもの”という題材を選んだ」

――それでは劇団ノーミーツ初の生配信公演となった『門外不出モラトリアム』について。Twitter上にUPされていた1、2分の短編作品からはかなり飛躍した「合計140分の長編」ということで、この意図を教えてください。

小御門:TwitterにUPしていた短編作品はZoomを使ったあるあるなので、日常のひとカケラを扱った作品たちでした。それをもっと起承転結のある「物語」を紡ぐということにして、演者・制作含めフルリモート体制で作れないかなと思ったんですよね。それでも最初は100分くらいに収めるつもりだったんですが、オンラインだからこその特有の間とか、演者さんが演技の感覚を掴んでいくうちにだんだん時間が伸びていって……。そこは僕の力量が足りなかった部分もありますが、オンライン演劇は家でリラックスして観れるものなので、長さはそんなに気にならないんじゃないかなとも思っています。


――観客側としては「長くて退屈だ」と思うより、「この長さをフルリモート体制で成立させられるのはすごい」と感心してしまうと思います。それだけ稽古時間などにも時間がかかってますもんね?

小御門:そうですね。稽古が始まってから本番まではだいたい2週間くらいしかなかったんですが、役者さんたちの尽力もあり、稽古漬けの日々でなんとか本番を迎えることができました。演出面でも慣れない部分は多々ありましたね。演出指導をしていても、ときおり相手の反応がわかりづらかったり。

ただ、結果的にはやはり役者の皆さんの協力に助けられた部分が大いにあったと思います。衣装から小道具、バーチャル背景までを一人ひとり指定している時間がなかったので、本当の演劇では舞台美術さんが担当するような部分をほとんどすべて役者さんたちそれぞれに用意してもらっていて。

――その「みんなで作り上げた感」というのも、Zoom演劇ならではのよさだと思います。続いて内容についてお聞きしたいのですが、本作の物語は「大学の4年間をフルリモートで過ごした大学生が、ときに時間を巻き戻したりしながら、恋をしたり友情に一喜一憂したり、このコロナ時代のよりよい未来を追い求めていく」というお話でした。“大学”、“タイムリープもの”、“恋愛”、“コロナ禍”などキーワードはいくつか挙げられますが、この物語の着想について教えてください。

小御門:まずは、「このコロナ禍の情勢を描く作品にしたい」という思いがありました。劇団ノーミーツ自体もコロナがなければ誕生していなかったわけですし、そこからは逃げずにやりたいなと。毎日のようにZoomで企画を練ったり稽古をしたりしていましたけど、実際会わずにコミュニケーションをとっているということもあったので、結構私たち自身のことを描いている側面もありましたね。実際に世の中では、大学に入学してもまだ同級生に会えてない人がいる。そうしたことを考えた結果、「大学4年間をフルリモートで生活する人たち」を主人公に置こうと決めました。

 それに加えて“タイムリープもの”という題材を選んだのは、物語の根底が“コロナ禍”というある種シビアなものなので、構成は鉄板というか、王道なものにしたかったんですよね。「何度も何度も時間を巻き戻してたった1つの正解を探す」という、『魔法少女まどか マギカ』、『STEINS;GATE』、『四畳半神話体系』など2010年代のアニメーション作品ではこすられまくってるストーリーの上に、今だからこそ共感できる設定を載せて作ろうと。もちろんその前には『時をかける少女』があったり、そうしたみんなが好きなものを使って現状を描いたら、みなさんにも楽しんでもらえるはずだという思いがありました。

 あと、「あの時こうしてたら未来はよい方向に変わってたのかな」というタイムリープものに付いて回る思いは、私たちの自粛期間における「あのときもっと予防をしてたら」とか「外出をしてなかったら」とかの気持ちともリンクしてくるだろうなって思っていましたね。それを、時間を巻き戻せる主人公だけの力じゃなくて、登場人物たちみんなの選択の結果としてよい未来が訪れました、という希望が提示できる物語にしたいよねって話になって、結末が形作られていきました。

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