オンラインイベント開催にあたり、注意すべき“権利の問題”は? バルス・林範和&弁護士・照井勝に聞いた

 バーチャルタレントは「参考になる法律や裁判例が乏しい」(照井)

――権利関係について、バーチャルタレントならではの問題もあるのでしょうか?

照井:VTuberの場合ですと、サブカル的なコンテクストからはじまったコンテンツという側面があり、まだまだ権利関係が整理されていない部分が見受けられます。例えば、プロダクションと演者さん(中の人)との間の契約がきちんと行われていない事例や、3Dモデラーさんがモデリングル作業をした場合に、その成果物の権利は誰が保有して、どういった形で利用できて、その対価をどうするかということが、きっちりと整理されていない事例がたくさんあります。これは、実はVTuberに限らず、日本のエンターテインメント業界全体の問題でもあるのですが、少なくとも音楽や映画、TVのような歴史の長い業界では、明文化はされていなくても、当事者の間では規範となりうる暗黙のルールや慣習が出来上がっています。ですが、VTuberは新しく生まれたコンテンツですから、必ずしもそういった暗黙のルールや慣習が成熟していません。そのため、ひとたび問題が起きると、基準とするルールや慣習がないために収拾がつかなくなってしまうということになりがちです。

 この場合に規範となりうる法律や裁判例は、必ずしも現実にリアルタイムで追い付いているわけではありません。特に今のように変化が急激な社会の場合には、現実との間にギャップが生じがちです。そのため、「3Dモデラーが作ったモデルが著作権法によって保護されるか」「モーションキャプチャーの動きには権利が発生するのか」という論点についても、直接参考になる法律や裁判例が乏しいのです。このような状況が今後も続くことが予想される以上、私としては、やはり関係者が英知を結集して、今から業界としてルールを共有したり、それを契約書に反映させたりしていった方が現実に合致するでしょうし、関係者にとって公平なバランスを保てるのではないかと思っています。

――ちなみに、これまでの「SPWN」のイベントの中で、お2人が印象的だったものを教えてください。

照井:私は弁護士を20年ほどやっていているのですが、専門分野は国内外のエンターテインメントに特化しており、事務所自体もこの分野に特化したブティック系法律事務所です。そんなわけで、普段から自分では「エンターテインメントのど真ん中にいる」と思っていたのですが、最初にタワーレコードの地下で開催された『TUBEOUT! Vol.1 〜ときのそら・銀河アリス リアルタイムARライブ〜』に招待していただいて観たときに、これまで触れてきたものとは全然違うコンテンツがやって来たと感じました。また、参加しているみなさんが、その場でスマートフォンなどを使って本当に楽しそうに主体的にイベントに参加する姿を観て、「時代は確実に変わったんだな!」と身を持って感じられた、私の中でエポックメイキングな出来事でした。

林:僕の場合は、照井さんにお話いただいた1回目のイベントが印象に残っているのと、もうひとつは、2019年7月に開催したハニーストラップの『Honey Feast 1杯目 – ハニーハウスへようこそ!-』を多拠点で同時開催したことですね。僕は大阪会場にいて、東京と名古屋でも同時に開催したんですが、多拠点で同時に双方向ライブをすることは僕らにとって初めてのことでしたし、3月にイベントをはじめて4ヶ月後に多拠点ライブを成功できたことは、とても感慨深かったです。それから、いい意味でショックだったこととしては、昨年の10月に周防パトラさんのソロイベント『PatLive ~ GALAXY LOVE ずっとずっと大好き!~』で配信限定ライブをやったときに、生配信だったにもかかわらず、観た方が「生じゃない(=丁寧に作り込まれた完成された映像)」と勘違いされてしまったことでした。そのときは、同時に配信の難しさについても実感しましたし、生でやるのが大事なのではなく、結果としてどんなふうに楽しんでもらえるかを考える重要性も改めて感じた経験でした。

――xRエンターテインメントの今後について、林さんはどんな可能性を感じていますか?

林:やはり、ウィズコロナの時代ではなく、アフターコロナの時代にこそ、より面白いことができるんじゃないかと思っています。しばらくはオフラインで大々的なイベントを開催するのはなかなか難しいと思いますが、アフターコロナの時代には、5G回線も普及しているでしょうし、オンラインとオフラインの境目がよりなくなっているはずです。「家で観ている人」「会場にいる人」「街中にいる人」が、絶えずエンタメに触れられるような環境が生まれるという意味では、技術や通信インフラ的にもその頃に、ちょうどいいタイミングを迎えているんじゃないかと感じています。新型コロナウイルスは色々なものを変えましたが、エンターテインメントに関しても、ものすごく色々なものを変えていくきっかけになるんだろうな、と感じています。今は大変ではありますが、そのときに向けての準備期間だと思っていますね。

――オフラインの体験とオンラインの体験がリアルタイムで混ざるようになると、新しいエンターテインメントや、新しい楽しみ方が生まれそうですね。

林:そうですね。僕らもただ配信プラットフォームとして事業を伸ばしていこうと考えているわけではなく、「どうやって新しいエンタメの場所をつくっていけるか」が重要だと思っています。これは昨年11月に白上フブキさんの『Congratulation!! FUBUKI BIRTHDAY PARTY.2019』を福岡でも開催したときに実感したんですが、やはり学生の方だと、東京や大阪だけで開催しても、なかなか会場まで行けない人も多いんです。同じように、札幌でイベントをやったときも、「札幌でやってくれてありがとうございます」ということを、多くの方々に言っていただけました。これは、ある意味オンラインの出来事なんですが、オフラインで楽しんでいて、オフラインとオンラインの間にあるようなことを、僕らはVTuberのイベントを通して実現できているのかな、と思っています。今後XRが普及していくとますます場所という概念が重要でなくなっていくと考えています。そうすると、僕らが創業当時からやりたかった「世界中の人たちで一緒に遊ぶ」ということが、実現できていくんじゃないか、とも思っています。

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