学校閉鎖から1ヶ月 フィンランド教員がオンライン教育に見いだした“利点と欠点”

最も大きな欠点は社会性の欠如

 「幼い子供達への教育は全てがオンラインでなされるべきではありません」とミエットゥネン氏は語る。「社会性や、共同で物事に取り組む、といったことも教育の重要な要素であり、国家学習指導要領の一部でもあります」

 「現在の状況はこの不可欠なスキルを学ぶことをほぼ不可能にしています」。今後人々が永遠に仕事も勉強も遊びも遠隔で過ごすならそれでも構わないかもしれないが、人間関係は画面の中の顔と話すだけのものではない。人々が触れあい互いとの関わり合いの中で生きていくのに重要な社会性はオンライン授業では身につかない。

 これは中学生を対象にした遠隔学習でも感じられたデメリットのようで「通常の対面学習で存在する、教育中の社交的な面を再現するのは難しい」とヘイコラ氏も語っている。「デジタルツールを通じて本当の団結力を作るのは難しいし、コミュニケーションと情操教育の訓練も難しい」

 家庭を離れてお互いと接する中での学び。多様性ある個性とのぶつかり合い。面と向かっての意思疎通の楽しさ、難しさ、繊細さ。これらの要素を欠いたままの学校教育は十分ではないと二人とも感じているようだ。

 家庭と離れた社会環境という面では、学校は家庭環境から離れた場所での教育という利点もあった。家から教育を受けなければならない現状は、問題を抱える家庭の子供達にとってより大きな問題となり得る。保護者協会理事のウッラ・シーメス(Ulla Siimes)は国営放送YLEに「現在の状況は既に『普通の家庭』にも重い負担となっているなかで、経済的不安定性、アルコールや薬物の乱用、精神問題などを抱える家庭の子供は極めて脆弱な立場にある」と語っている

遠隔教育がもたらした気づき

 遠隔教育には利点も欠点もある。そんな中で遠隔教育が気付かせてくれた事柄は何かあっただろうか?

 ミエットゥネン氏は、遠隔教育は外出自粛状況での教育という問題に対する素晴らしいアンサーであると感じたと共に、適切に教育が機能するためには通常の学校も必要だということに気付かされたという。「大半の教育資源は学校にありますし、ルーティン/日課や他の不可欠なスキルも学校で学びます。学校とはコミュニティーであり、人と人との繋がりがあってこそ上手く機能するものです」。

 ヘイコラ氏は、遠隔学習が目を開かせてくれたのは、学び自体は時間と場所を問わないということだと述べた。「ほとんどの生徒は家でも学校にいるときと同じように学習目標を達成する」ということに気付いたそうだ。しかし「その一方では私はこの仕事の社交的な部分が恋しくなるし、一日のリズムも恋しくなります。こういうところはやはり遠隔授業では成り立つのが難しいですね」とも語った。

 授業についていくのが難しい生徒の補助などを行う学習補助員も今の状況で大きな役割を果たしている。通常は教室の中で活躍する学習補助員だが、遠隔授業の現在では例えば支援が必要な子供たちに電話をかけて彼らの課題を手伝ったり、その時間割をきちんと守ることを手伝ったりしている。「学習補助員達はこの学校でとても価値のある仕事をしています」とヘイコラ氏は語った。

遠隔教育でも変わらぬ教員への尊敬

 自宅から遠隔教育を受ける子供を持つ他国の生活者からは、これまで子供達が家で勉強する必要に迫られたことでようやく「学校の先生の偉大さがわかった」という様な声も時折聞かれる。この点についてフィンランドではどうだろうか。ヘイコラ氏に尋ねてみた。

 「保護者達はコロナウイルス以前より私の仕事を評価してくれていて、同時に信頼してくれていると感じており、今回の状況を受けてそれが大きく変わったとは思いません」

 フィンランドでは教職は子供がなりたい職業トップにも挙げられ、人々から尊敬される仕事だというのはよく聞くが、このコメントからは教師側も保護者達から信頼されていると感じていることが伝わってくる。教員への尊敬も遠隔教育成功の一因なのかもしれない。

 「逆に私の方こそ、遠隔教育中の保護者達と彼らの協力と応援に大変感謝しています」ともヘイコラ氏は加えた。

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