“フェスアプリ”海外と日本の大きな違いは? 開発者2人に聞いてみた

“フェスアプリ“なぜパッケージ化?

 株式会社Spincoasterが、3月26日に音楽フェス向けアプリを簡単に導入できるサービス「FESPLI」を公開。本日より開催されている『WILD BUNCH FEST. 2019』の公式アプリとしても導入されている。

 同サービスは、タイムテーブル管理やアーティスト情報、グッズ販売など、フェスに必要な機能を揃えている公式フェスアプリ(iOS・Android)を、Web管理画面を含めたパッケージとして低コストで販売。開発・運営のコストを大幅に削減できるのも大きな特徴だ。今回は同サービスの開発者であるエンジニアの大川遼太朗氏(株式会社Spincoaster)と、デザイナーの大山裕之氏にインタビューを行い、開発の経緯や日本のフェスアプリについての問題意識、海外の事例などについて話を聞いた。(編集部)

 日本と海外の“フェスアプリ”事情

大川遼太朗氏(左)と大山裕之氏(右)

ーー今回、フェスアプリをパッケージ形式でリリースしたのは面白いですね。何かしらの問題意識があって、このような形になったのでしょうか。

大川:もちろん、問題意識はありました。イベントの主催側・開発側の立場として、あとは社会としてそうあるべきだと思ったんです。

ーーそれぞれの立場からどのように考えたんですか?

大川:主催者側の立場を考えると、年に1回のイベントに対して質の高いアプリをスクラッチで開発するのは、相当の規模感がない限りコストに見合わないんです。機能に凝り始めると1000万円規模になりますし、だからといって予算をギリギリまで削ると、結果的にユーザーにとって使いづらいものができてしまう。

ーーそれは誰も幸せにならないですね。あと、社会としてというのは?

大川:経済合理性が低いという話ですね。フェスのアプリってどのフェスでも求められる機能が大体同じだから、違う人が同じようなアプリを何個もつくるのは、社会全体の生産性として圧倒的に無駄だなと思います。それに、前述したように、そもそも予算をかけれないので、品質が低いアプリも多く、結局それらは使い捨てられてしまう。それなら、高品質なアプリ・パッケージを誰かが頑張って1つ作って、小規模~中規模のイベントでも、導入しやすい形で横展開した方が社会全体としてみんながハッピーになるはず。「他の開発者は余った時間でフェスに行けばいいじゃん」と思います(笑)

ーー対象を音楽フェスに絞ったのはなぜ?

大川:裾野が広すぎて全体がぼやけちゃうのもよくないと思いましたし、Spincoasterが音楽メディアを運営していることも大きいです。あと、今のフェスアプリの現場って、今年のサマソニのアプリのようにチケット販売会社がフェスの券売をすることと並行して作るケースもあって。そうすると機能がどうしてもそっちの視点になってしまうことも少なくないので、ホワイトレーベルな形で横展開できるような仕組みを作りたいと思いました。

ーー開発にあたって、国内外のフェスアプリを参考にしたと思います。具体的に日本と世界のフェスアプリには、どのような違いがあると考えますか。

大山:前提として「海外のフェスアプリがいい」と言ってる人がいるんですけど、海外が圧倒的に質がいいかと言われれば、必ずしもそうではないんですよね。ただ、かなり早い段階からアプリに限らずデジタルに対する投資をしているのは間違いないです。会場でリストバンド決済ができたり、チケットを電子化したり、それらがアプリと連動するところまで進んでいるので。

ーー代表例を挙げるとすると『Coachella』あたりでしょうか。

大山:その『Coachella』を手がけるGolden Voiceや、Live Nation系のC3 Presentsという会社が代表的ですね。彼らのアプリを多く手がけているのはGreencopperという会社なんです。

ーー『Sonar』や『PANORAMA』も手がけてるんですね。

大山:あと、ベルギーにAppmiralという会社があって。機能的には大差ないんですけど、音楽フェスのアプリをパッケージ形式で作っているという意味では事例の一つとして参考になりました。とはいえ、彼らの顧客には大規模のフェスが多いので、自分たちは日本向けにローカライズしたプランを用意していきました。

ーーそれらの会社が手がけるアプリは、特徴的な機能があるんですか。

大山:結構前から実装されているのは、Google Mapの上に会場のマップを重ねて、現在地がどこで、ステージやトイレ、飲食店がどこにあるというのがわかるようになっている「インタラクティブマップ」なんかは良い例ですね。最近だとARでスポンサードコンテンツが映るようになったりとか、ソーシャル連携して友達の居場所がわかるようになっていたり。

ーーそういう意味で今年のフジロックのアプリは使いやすかったと思うんですが。

大川:そうですね。今年のフジロックのアプリはSoftbankが手掛けたこともあって完成度の高いアプリとなっていましたね。アプリはオーディエンスと最も接点のあるポイントになるので、プロモーションの媒体としてもかなり有効だと思うんです。主催者もオーディエンスもハッピーになれて企業のブランド価値も高まる。今回のフジロックのアプリは理想的な座組だと思いました。

 あと、現地にいて思ったのは、今年のフジロックの2日目は警報が出るほどの大雨に見舞われて、タイムテーブルの変更や、通行止め、危険なエリアもありましたよね。大事に至りませんでしたが、このような緊急時の情報伝達をアプリが担えると良かったなと思いました。

大山:インバウンド対応もこれからはマストになってくるんじゃないですか。HPや会場配布のガイドって、だいたい日本語でしか書いてないんですけど、アプリが英語対応していくというのは先々のことを考えるとやったほうがいい。紙で多言語化するのは大変ですけど、アプリでの実装を含め、テクノロジーを使った仕組みで解決できることではあるのかなと思います。

大川:ある程度のところまで翻訳機能なら、現段階でも実装できないことはないですから。

大山:そういう意味で今後アプリの存在って、公式HPやそれ以上になくてはならないものになるんでしょうね。フェスって、ある種の不便さが魅力になる部分もあるとは思うんですけど、アプリに関しては無いことがプラスの魅力にはならないと思います。遠かったり、天気がすぐ変わったりするのは非日常的で魅力になるけど、会場で現金しか使えないことは果たして魅力なのか疑問で、実際に電子決済はマストなものになってきているわけで。

ーー想定していたけど実装できていない、みたいな機能はあるんですか。

大山:mixi的なコミュニケーション機能は実装したいです。

大川:mixi的かどうかは置いておいて、せっかく非日常の空間に行ったなら、趣味が近い人と繋がって楽しみたいという欲求もあるじゃないですか。

大山:昔はmixiに「初心者トピ」みたいなのがあって、毎年行ってる人が初心者の質問に答えていく優しい世界があったんですよ。ああいう空間を作ってみたいなって、実は『YEBISU MUSIC WEEKEND』(大山氏が制作に携わった、恵比寿ガーデンプレイス一帯を会場としたライブ・トークセッションによる音楽フェスティバル)の時から考えてたんですよ。開催期間の前後で接点を作るにはどうすればいいのかって。

ーーチケット購入もそうですが、日常的に発信していればいるほど、ユーザーもよりアクティブかつリピーターになりやすいのかもしれないですね。そういう意味で海外フェスって、チケット購入や電子決済を紐づけていることもあって、会員登録必須のアプリが多いのも特徴かなと。

大山:チケットを買うところから現場で楽しむところまでワンストップで使えるんですよね。1回ログインをしておくだけで、ウェブでもアプリでもマイタイムテーブルを見られたり。余談ですけど、海外のフェスってチケットを買うと毎年優待メールみたいなのがくるんですよ。「明日ラインナップ発表するよ!」「明日からチケット販売始まるよ!」みたいな。継続的にお客さんとのコミュニケーションをとるというのは、日本のアプリにはない要素かもしれないですね。

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