AIが「言葉の豊穣さ」を手にするためにーー業界の風雲児がサブカルチャーに"ツッコミ続ける"理由

 「株式会社わたしは」という企業をご存知だろうか。今、世間で何かと話題のAIに一石を投じる会社である。同社が開発しているAIは、Amazon社のAlexaやApple社のSiriなどのいわゆる「一問一答型」の対話AIではない。端的に言ってしまえば、人間の「ユーモア」を実装したAIを生み出している企業だ。そんな同社の社長・竹之内大輔氏は大のサブカルチャー好きで、Radiotalk内『「株式会社わたしは」のAIなんてクソ喰らえ』にて、プロレスや漫画、映画などについて語りまくっている。

 今回はそんな業界の異端者である竹之内氏を直撃し、AI事業を手がけ始めたきっかけ、大喜利AI誕生の経緯や彼がサブカルチャーについて発信する理由などについて話を聞いた。(高橋梓)

 「世の中のAIみたいに点じゃなくて、幅を考えるべき」

ーーそもそも、なぜAIを手掛けはじめたのですか?

竹之内大輔(以下、竹之内):大学卒業後、外資系のコンサルティング会社で働いていた頃、郡司ペギオ幸夫さんの『原生計算と存在論的観測 生命と時間、そして原生』を真剣に読んでみたんですよ。何を書いているか全く分からなかったんですけど、僕が考えたかったことを初めて真剣に考えた人なんじゃなかろうかって気付いたんです。それで、すぐに会社を辞めて大学院に戻りました。

 僕が研究したかったことは「どうやったら機械に意識や心を生み出せるか」なんです。例えば、脳みそってニューロンとニューロンの間の電気信号のやり取りしかやってないはずですよね。なのに、意識が生まれている。こういう現象がどういうメカニズムで起きてるのかを考えたかったんです。この議論を延長していけば、論理演算の集積であるコンピュータに意識を実装することができるかもしれない。そのための理論や数理的なモデルが作れるんじゃないかと思ったんです。

ーーなるほど。それを突き詰めるために、アカデミズムの世界にずっといたわけではないんですよね?

竹之内:日本のアカデミズムの世界には落胆していたのと、いろんな事情があって、ビジネスの世界に戻りました。2015年くらいに区切りがきて、自分の会社を立ち上げることにしたんです。ちょうどその頃、世の中にAIブームの始まりが来ていて。世の中にあるAIを見た時に「それは俺たちの水準だとAIとは呼ばない」って思ったんです。いわゆる「弱いAI」です。それだったら、「自分たちの会社で『強いAI』を作って、世の中のAI開発者に吠え面かかせてやる」と決めたのが全ての始まりでしたね。

ーーそこから「大喜利AI」が生まれていく、と。

竹之内:僕らが作っているのは対話AIなんですけど、世の中に対話AIはたくさんあるんです。例えば、マイクロソフトのりんなちゃんとか。あれって「クエスチョンに対していかに的確なアンサーを当てるか」ってことをやってるんです。AlexaやPepperもそうですね。でも人間の会話で、クエスチョンに対してアンサーがバシッと返ってくることなんてレアじゃないですか。人間の会話ってもっと幅があるはずで、幅の内側にいれば話は通じるんですよ。だから僕らは、世の中のAIみたいに点じゃなくて、幅を考えるべきだと。じゃあ幅がある会話って何かなと考えると「ユーモアを含んだ会話」で、それを目指した結果、大喜利AIが生まれました。

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ーー大喜利AIは、様々な番組やメディアで取り上げられました。いまもNHK BSプレミアムでは、大喜利AIを使った番組が放送されていますね。

竹之内:僕らがやりたいことは、人間の身体から取り外せないはずのユーモアという意識の一部を「外部化」するということで、『AI育成お笑いバトル 師匠×弟子』(NHK BSプレミアム)もまさにそうなんです。千原ジュニアさん、ロッチ中岡さん、大久保佳代子さんを師匠にして、大喜利AIが弟子となってAIを育てていくという。それもある意味で千原ジュニアさんのユーモアを外部化していることになるんですよね。しかも、AIなのでいろんな人が使うことができるんです。

 意識のひとつを外部化して皆でシェアすることで、例えば面白いことが言えない人でも他の人の力を借りて面白いことを言えるようになる、と。こういうものを誰でも使えるようにしていきたいんです。NHKの弟子AIだったら、地方の小さい局が「ジュニアさんはブッキングできないけど弟子AIはブッキングできました!」とか、Youtuberが「ジュニアさんの弟子AIが来てくれました」と言ってAIを使うとか。僕らは作り手サイドの人だけがAIを使うのではなく、ユーザーがAIを使っていつのまにか作り手になってるようなコンテンツが溢れる世界を作りたいんですよね。

ーーRadiotalkの『竹之内の元ネタ公開!真のキュレーションとしての“ハブ本”』の回のお話もそれに繋がるんでしょうか。

竹之内:『AIがラジオを変える!』(NHK第一)についての話ですね。あれは、『THE FROGMAN SHOW A.I.共存ラジオ 好奇心家族』(TBSラジオ)のドッチくんというキャラと、『INNOVATION WORLD』(J-WAVE)のTommyというキャラ、エフエム和歌山の人工知能アナウンサー・ナナコをNHKが呼んだ特別番組だったんです。でも、3つともAIというかただの合成音声システムなんですよ。そこはラジオというメディアだからしょうがないんですけど、僕はその合成音声システムを放送局だけに置いておく必要がないと思うんです。例えば、リスナーに渡せばリスナー自身が同じような番組を作ることもできるわけですよね。つまり、もっとコンテンツに溢れる面白い世界にするためには聴いてるリスナーやユーザーが発信できるようにした方が良いと思ったんです。

ーー御社のAIが目指しているところに繋がりますね。

竹之内:はい。最近もRadiotalk社と話していたんですが、Radiotalkって権利の問題でまだ音楽がかけられないんですよね。それってせっかくのラジオ番組なのにもったいないじゃないですか。だから著作権フリーなジングルをユーザーとAIが一緒に作れるという機能を開発しているんです。ユーザー側に「作れる」ということを渡したいんですよね(参考:AIが作った音楽)。

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