『名探偵ピカチュウ』『シン・ゴジラ』……“モーションキャプチャー”が可能にする新時代の映像表現

 それまでに、映画におけるCG技術は、業界内で問題になっていたという事実を紹介しなければならない。ヴァル・キルマーがバットマンを演じた、『バットマン・フォーエヴァー』(1995年)という実写映画がある。そのなかで、高いところから飛び降りたバットマンが地面に着地し、そのまま去っていくというシーンを、役者を全く使わずに、CGアニメーションのみで作り出してしまった。これは、いま考えると大したこととは感じないが、当時はハリウッドの俳優組合が危機感を感じて猛抗議したという経緯がある。CG技術の発達によって、リアルな映像を作り出せるようになったことが、役者の仕事を奪いかねない事態を生んだのだ。

 だが、CGを使用した作品における、「モーションキャプチャー」の使用によって、その危機感は一部で解消されることになる。それは、ファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)に登場した“ゴラム”というキャラクターに象徴されるような、新しい映像表現の達成から始まる。ゴラムは、人間とは骨格が異なる小さな身体で這い回る不気味な存在だが、この動きを演じたのが、のちに“モーションアクター”と呼ばれるようになったアンディー・サーキスだった。

『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 彼は、マーカーのついたボディースーツを身につけ、カメラの前で登場人物になりきって迫真の演技をする。その動きはデジタルデータへと記録され、CGアニメーションへと移植されるときに骨格の位置を変化させることで、人間にはあり得ない動きを、しかも迫真的なリアリティを持って表現することに成功したのである。これは、新しい時代の着ぐるみ俳優という見方もできる。アンディー・サーキスはその後、リメイク版の『猿の惑星』シリーズでも猿の役で名演技を披露し、モーションアクターの第一人者となった。

 大作映画は、技術の見本市である。各スタジオが、最新の表現で他を圧倒することを目指し、日々研鑽を重ねている。そのような競争のなか、CGを発達させる過程において、少しでも映像にリアリティを与えたいと思うのは自然な流れだ。その結果として、生身の人間が演じた方がより良いだろうということになる。この取り組みは、CG時代における俳優の復権をも意味している。

『アリータ:バトル・エンジェル』(c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 このような試みは最新映画でも健在だ。最近公開された『アリータ』では、高精度な「モーションキャプチャー」技術によって、表情の微妙なニュアンスさえも再現しつつ、生身ではあり得ない瞳の大きさを実現し、新しい女性ヒーローの姿を生み出した。

 さらに5月公開予定のハリウッド実写映画『名探偵ピカチュウ』では、『デッドプール』(2016年)の主演俳優、ライアン・レイノルズが、“ピカチュウ”の声だけでなく、なんとその動きまで演じている。レイノルズの身体だけではなく、その顔にまで無数のマーカーを装着、表情もピカチュウとして克明に再現される。つまり、CGアニメーションのピカチュウがニッコリと笑うとき、我々観客は間接的にライアン・レイノルズの笑顔を見ていることになるのだ。

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