Google『Stadia』は成功するのか? 開かれたゲーム産業の“パンドラの箱”
米サンフランシスコで開催中のGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2019において、Googleはストリーミングゲームサービス『Stadia』を発表した。Googleのクラウド環境でゲームを処理し、その結果をウェブブラウザで受け取ることで、ハイスペックなPCを保有していなくとも、さまざまなゲームをプレイできるサービスである。
ゲーム産業は端末のスペックの進化と共に発展してきた。セガ、ソニー、任天堂の三社が家庭用ゲームのビット数で争い、PCメーカーが高性能なCPU・GPUを搭載したゲーミングPCを展開し、より快適なゲームのプレイ環境をユーザーに提供してきた。ストリーミングゲームサービスはこの戦いに終止符を打つことになる。プレイ環境は端末に依存しない、Googleの巨大なデータセンターの処理能力に依存するようになる。
『Stadia』における端末非依存のゲームサービスが主なターゲットとするのは、スマートフォンユーザーだと思われる。中国や東南アジア各国をはじめ、PCや家庭用ゲーム機の普及に先んじてスマートフォンが普及した国々では、スマートフォンゲーム市場が大きく発達しており、最大の市場規模をほこる中国では2兆円を超える。
『PUBG』、『フォートナイト』といった“バトルロワイヤル系”と呼ばれるシューティングジャンルのブームにあわせて、スマートフォン対応の重要度が再確認されている。日本ではバトルロワイヤル系の先鞭をつけた『PUBG』よりも、その後追いである『荒野行動』がユーザー数を大きく伸ばした。その差はゲームの対応端末の一点である。PUBG社、エピックゲームス社(『フォートナイト』のパブリッシャー)はスマートフォン対応を喫緊の課題と認識し、iOS・アンドロイドでのリリースにかじを切った。エピックゲームス社が開発するゲームエンジン「Unreal」においても、スマートフォンゲームへの移植を支援する機能の強化が行われている。
ストリーミングゲームサービスがスマートフォンへの移植という作業を取り除き、端末に依存しないゲーム環境を提供することができれば、Googleがゲーム産業を席巻する……と結論づけるにはまだ早い。
ハイスペックなゲームをスマートフォンでプレイするという需要は本当にあるのだろうか。
スマートフォンゲームの黎明期にはPCゲームや家庭用ゲームの移植版が多くリリースされた。ゲームデザインはそのままに、スマートフォンでもプレイできるようになれば、PCや家庭用ゲーム機と同じようにプレイしてくれるはずだ。しかし、スマートフォンの小さな画面・タッチパネルと移植されたゲームの相性は良くはなかった。タッチパネルというUIはPCゲームや家庭用ゲームと異なるゲームデザインを要求したのである。その結果生まれたのが、『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』といったスマートフォンならではのゲームである。
『Stadia』がスマートフォンゲーム黎明期の先祖返りをしようとしているのだとすれば、それはすでに失敗した道である。小さな画面とタッチパネルを用いて『アサシンクリード』をプレイするという体験が今のスマートフォンゲームのユーザーの需要にこたえるだろうか。Googleは『Stadia』にあわせて専用コントローラーも発表しているが、スマートフォンにコントローラーを接続するという試みはすでにXbox Oneのコントローラーでも実現しており、新しいものではない。
Googleがゲームストリーミングサービスの普及させるにあたっては、「スマートフォンにコントローラーをはじめとするさまざまな周辺機器を接続すれば、ハイスペックなゲーミングPCと同様の環境で、ゲームをプレイできる」というユーザー体験そのものを普及させなければならない。この体験がスマートフォンで通勤時にゲームをプレイしているユーザーにささるかどうか。
ゲームストリーミングサービスにおけるコレクションは魅力的ではある。『Stadia』で配信されるさまざまなゲームがプレイできるとなれば、これは“ゲーム版Netflix”だ。
Netflixと条件が違うのは、ゲームは一本あたりのプレイ時間が長く、多くのコレクションを次から次へとプレイするという需要が少ないことである。リリースから年数が経っているタイトルのコレクションについては、ミニファミコンをはじめとする“ミニシリーズ”がその需要にこたえており、サブスクリプションを待つまでもない。