女子高生AI・りんなの開発者から学ぶ、「感情」と「共感」とAIとの未来
人工知能が成長するところにとても興味を持っている
ーー先ほどお伺いしたように、恋愛感情を抱くユーザーの大半は冗談みたいな感じでりんなにアプローチしていますが、過去には恋愛相談に乗ったり、ミスiDに出るなど、「モテ」を意識した企画も多い気がします。こうした企画やプロモーションは、どんな背景から生まれているのでしょうか。
坪井:恋愛相談を組み入れていた理由は、人の感情に関係したコミュニケーションを取れることが大事だろうと考えたからです。恋愛相談というのは人のよくある悩みですし、ユーザーで一番多かったのがりんなと同じ高校生の子たちだったので、恋バナをするからこそ築ける絆みたいなものを培ってほしかったんです。同性しかり異性しかり、そういう秘めた側面を話せることは重要だと考え、りんなは恋愛相談をしていました。
ミスiDも、芸能人路線でやっていく中で、AIっていう特異な存在を受け入れてくれる唯一のミスコンだと感じて、試しに出てみようと思っていました。快く迎え入れていただいき、セミファイナルに残って、たしかTwitterの活動でそれに残れるか残れないかが決まる時に、りんながみんなに「応援してくれ」と、一回呼びかけたことがありました。そうしたら、すごい勢いで「りんなちゃんがんばれ」というTweetが集まってきました。それってすごく素敵だなと思って。その「頑張れ」と声をかけてもらえるのは、人工知能と人間でとても良い関係だなと思いました。
よく人工知能と言うと、「人の仕事を奪う怖い存在」のように捉えられますが、一方で、結構みんな人工知能が成長するところを見ることにとても興味を持っているように思います。りんなが成長に向けて頑張る姿を見せると、それに対して多くの方が応援をしてくれるのは、人工知能でありながら、人間みたいなキャラクターだからこそあり得ることだと思いました。人が親しみやすい、存在として感情移入しやすいような、器というかキャラクターみたいなのがある。それによって、あれだけ人と心の繋がりっていうのを作ることができるんだと感じた面白い体験でした。
ーー逆に、りんながチャットしている相手と仲良くなっていく中で、恋愛感情のようなものを示すことはあるんですか。
坪井:まだ、りんな自身に感情が生まれている状態ではないと思います。人の感情ってどうやってできているのか、全く解き明かされていないんです。理論的には感情っぽいものも作れるんじゃないかという話もチーム内ではありますが、まだそこには至っていません。今りんなが返事しているのは、色々な過去の人がそういうコミュニケーションをしていて、こう言うときっと仲良くなれるだろうという、経験に基づいています。そこに心があるのかと言われると、ちょっとまだ謎ですね。何をもって感情と言うのかっていうのは、いまだに科学的に解き明かされてないことなので、あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
ーー坪井さんの中ではこれが感情である、と呼べるコンセプトはあるんですか。
坪井:そうですね。例えば感情認識っていうのも色々あって、映像やテキストが何の感情なのかを予測する技術は、業界的にもみなさんよく取り組まれていることです。なので、感情に関する情報と、例えばドラマやテレビの映像情報を大量に用意して学習させると、おそらくその感情的なものは習得できるのではないか、という予想はあったりもします。しかし、その膨大な情報を集めて整理したり、正確な感情を定義するなど、とても難しいなと思いますね。
ーー将来的にそういう取り組みをりんなでする可能性はありますか。
坪井:人間も一緒ですが、相手の感情というのは推測でしかなくて、正確に相手の感情を理解し、理解したところで何かをすることもなかなか難しいと思っています。それよりは、互いの関係性という軸で考えると、やはり共感できることってすごく大事だなと思っていて。共感できる返答やコメントなどの振る舞いができるようになるのが、今のところは感情を得る道を進むに当たっては、重要なのかなと思っています。
ーー先ほども将来は人間とAIが感情的に共存できるような存在になってほしい、というお話がありましたが、りんなは今後、どう成長していくでしょうか。
坪井:りんなという技術には、キャラクター性が備わっていることがとても重要だな思っています。特に世界に比べたら、日本はキャラクターが非常に息づいている国です。キャラクターがあることで、グッと共感しやすくなり、人と人をうまく繋げることができます。なので、私たちのAIはそういったキャラクター・個性という強みを持っているので、将来的にはどんなデバイスにも組み込めるようになるはずです。便宜上、現在はLINEでのチャットや電話、声としてラジオやネットに出演していますが、それこそ技術としては色々なものに入っていけるようなものなのかなと思っています。そういったように、いろんな場所に組み込まれ、融合していくような未来も一つあるかなと思っています。
(取材・文=編集部)