KORG、Teenage Engineering…… 最新モジュラーシンセの動向を追う

最高のモジュラー入門機「Pocket Operator Modular」

 Teenage Engineeringの新製品は、同社の人気電卓型シンセ「Pocket Operator」の名を冠したモジュラーシンセ。今年の『NAMM』で一番目を引いたのは、このシンセではないかとも言われている。組み立て式、電池駆動、スピーカー内蔵と、衝撃的な要素が揃いすぎているのだから。

 「Pocket Operator Modular」は、Series1として16個のモジュールが登場し、演奏に必要なモジュールをまとめた3種類のキット「16」、「170」、「400」が販売されている。「16」はシーケンサー付きキーボード、「170」は「16」を含んだモノシンセ、「400」は3オシレーターをもつ本格的なモジュラーシンセとなっている。

 本体シャーシはアルミ筐体で、組み立て後に基盤を取り付けるだけで完成。DIY的に楽しめるだろう。見た目はチープでも、3.5mmジャックによるパッチングや、他のモジュラーシステムとの連携も問題ない。コンセントやスピーカーがなくても演奏できるというのは、モジュラーの世界においてはとても珍しい存在だ。

Teenage Engineering 400 Modular Synth NAMM 2019

 そして、何よりすごいのはその価格。上述したように、モジュラーシンセは初期費用だけでも相当のお金がかかってくる。しかし、本格仕様の「400」でさえ、価格はたったの499ドル。Teenage Engineeringはこのシンセを「Poor Man’s Modular(お金が無い人のモジュラー)」と称しているが、この価格破壊っぷりは、興味はあっても価格がネックになっているというモジュラーに予備軍な人たちにグっと刺さるだろう。499ドルという価格は、普通のモジュラー1個分に近いのだから。

 「volca modular」と「Pocket Operator Modular」には、モジュラーシンセとは思えない安さ、電池駆動&スピーカー内蔵という点が共通している。これらはいずれも、入門向け楽器に共通する要素であり、これほどわかりやすい入門的窓口がモジュラーにもできたのは大変に興味深い。「volca modular」に関してはvolcaの文脈も含まれているため、シリーズの中では高価格(2万円)な方だが、セミモジュラーとしてみれば「KORG MS-20 mini」よりもお安く、かつ手軽だ。

 難解で高価だったモジュラーシンセがかたちを変えながら、各メーカー独自にモジュラーの魅力を追求し続けている。このことは、いちジャンルのファンとしても嬉しく思うと共に、新たなモジュールやモジュラー的要素を含んだ楽器の登場を待ち遠しくさせてくれる。暗闇の中で明滅するモジュールシステムは、今の時代では「映え」というかたちでビジュアルに訴える力もあるかも?

Modular Mayhem - Eurorack Jamsessions with Colin Benders 15

 音と向き合えることが、モジュラーシンセの真髄だと筆者は思う。試行錯誤し、ツマミやケーブルをこねくり回しながら、実験的に音を鳴らすその行為には、創作の貴さが宿るだろう。モジュラーに触れ、音を作る面白さに触れ、やがて沼の住人になってしまうかどうかは、別として。

■ヤマダユウス型
DTM系フリーライター。主な執筆ジャンルは音楽・楽器分析、アーティストインタビュー、ガジェット、プリキュアなど。好きなコード進行は<IVM7→VonIV>、好きなソフトシンセはSugarBytesの「Obscurium」。主な寄稿先に『ギズモード・ジャパン』、『アニメイトタイムズ』、『リアルサウンド』。

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