連載:空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」 『CY8ER 4th ワンマンライブ』の仕掛けを解説

 

空間ディレクターの見せどころ

 自分の演出は基本的に、ハードから最初につくる。何故かと言うと、ライブハウスやクラブは、形が決まっていて、つまり条件が限られているからだ。そうすると、この条件の箱のなかで、果たしてどんな舞台美術を入れてやったらおもしろいだろうかと。だからハード面のできることを先に限定して潰してしまう。

 箱の制約は、ストレートに言うと広さだ。それに応じて置けるものが限定されるし、使用できる機材も変わってくる。その上で、映像のあるなし、舞台を拡張するかどうか、などを判断していく。もちろん予算もあるから、それによって、入れられるもの、入れられないものが発生する。あとは会場の電気容量も大きい。

舞台プラン図

 今回、舞台美術は比較的シンプルで、左右に単管があり、上にトラスが入っている、というある種シンメトリーのステージ。そして、目の前にメンバーの数だけお立ち台がある。また、条件にYunomiさんにDJをやってもらう、というのがあり、後方にDJブースを組んでいる。

 機材は、LEDディスプレイと、ムービングと、レーザー。LEDディスプレイは、センターに1面、左右に長っ細い「短冊」という形のものが2面、DJブースに1面。ムービングは34台、レーザーは17台入れたが、この規模なら通常、ムービング20台、レーザー6台も入れたら充分に派手な演出ができる。この規模でこの物量は聞いたことがない。つまり今回は、かなり勝負したということだ。

 自分は空間演出家だから、どのように空間を使ったらおもしろいかを考える。当たり前だが、ライブハウスの数は限られている。きっとオーディエンスの方々は、STUDIO COASTには何回も来ている。そこをいかにSTUDIO COASTのように見えなくするか、というのが一つ、空間ディレクターの醍醐味というか、腕の見せどころだ。

強行的にスケールを大きくする


 そうすると、この箱の条件で、空間設計のなかで、果たしてどんなセットリストを入れてやったらおもしろいか、ということも見えてくる。セトリを組むとき、全体の曲の並べ方はhuezの得意な人間に振っているのだが、ただ今回は、自分が細部まで指示を出して、やるべきだと思っているギミックを全解像度のなかに突っ込んでいる。

 解像度について言うと、まずいちばん大枠から決める。全体の波だ。その次にブロックの中身を決めて、曲で何をするかを決めて、「この曲のこの音でこれをやってください」という4段階のフォーカスを組んでいく。全体、ブロック、曲、音という4段階の細かさ。それによって統一性をとる、という。

 4段階を逆走するが、ワンマンライブを1曲1曲で見ない。さらに言うならブロックで見ない。さらに大きくすると、このワンマンライブの全体構成だけで見ない。じゃあ次のワンマンライブを考えましょう、2コ目、3コ目、先のことを考えましょう。CY8ERという大きな流れがどういうものなのかを考えましょう、ということだ。

 実際のところ、タイムストレッチを扱える演出家は少ないと思う。だからそれは自分の強みだと思うが、その強みをいい形で出すには、ワンマンライブ1コで考えない。スケールフリーにすると。どんどんスケールは強行的に大きくできる。そしてhuezはそのすべてに役割分担をかけている。

同じ曲を3回連続でやる

 今回、アンコールで「はくちゅーむ」という曲を3回連続でやったのだが、この曲は、CY8ERのライブを見たことない人でも知っているような代表曲で、通常はアンコールで使うような曲じゃない。これを本編で1回もやらないで、アルンコール一発目にどんとやる。それも3回連続。

 「はくちゅーむ」は、すごくお客さんが身体を動かす曲で、「もしかしたら3回もたないんじゃないか」とも思ったが、もうやってみてやろうと。1回目、やはりファンは、めっちゃ盛り上がる。それを、もう1回とやると、「もう1回だ」と喜ぶが、頑張らないとついてこれない。そういう意味では、ファンの人たちに「お前らついて来れる?」という、ちょっとした、いたずら心のようなものがあった。ただ、もちろん、そのしつこさの演出だけでは飽きられてしまうから、見せ方の演出ははっきりと分けて、全部を違うものにしている。

 1回目、これはストレートに、「まさにアンコール一発目っていう照明をつくってください」と。お客さんの席が明るくなって、ハッピー感が出て、みんなで一緒にどんちゃん盛り上ろうという演出。映像もレーザーも何も出ていない。照明と演者がいるだけという、いちばんシンプルなライブの見せ方。

 次の2回目は、この上にレーザーを重ねるのだが、「レーザーを立たせる照明に全部切り替えてください」と言って、照明の色味がなくなり、白のみ。レーザーと白の照明のみ。レーザーには、「音をはめられるだけはめて、出せる数全部使ってください」と。

 3回目はそこからさらに映像がのる。そのとき映像とレーザーと照明に言ったのは、「フルマックスで」と。「ほかのレーザー、照明、映像を立てなくていいから、全部自分たちでパンパンに出してください」という演出をとった。「でも、ここと、ここと、ここでは、レーザー立てる、照明立てる、映像立てる、というのは守ってね」と。

 もともとこのCY8ERというグループは、前回のワンマンのときにも「ごーしゅー!」という曲を3回連続でやったり、そもそも対バンライブで、同じ曲しかやらない40分間とかを平気でやる人たち。そういう意味で、その「しつこさ」の魅力をとったと言える。しつこさが効果的に使える人たちだと。

 そのしつこさと、いたずら心で、アンコールで同じ曲を連続でやってみたと。これはもう単純に、「はくちゅーむ」の演出のリミックスを3回連続でかけた、ということだ。その理想値までいけたかはわからないが、記録の角度が違ったら、違う箱でやった、違うワンマンライブに見えるぐらいの変化をつけた。

 音楽のDTMで使われている、リミックスやサンプリング、違う曲を上から重ね合せるマッシュアップという、そういった手法は、演出のギミックとして類推的に使うことができる。自分は、もともとは小劇場演劇をやっていて、それを拡張する形で、huezで演出を手がけているから、演劇だと同じ戯曲を違う演出で、というのは基本で。たぶんそういった意味で、演出家としてかなり攻撃的ではあるが、正統派でもあるんだと思う。

(構成=渋都市)

■ CY8ER (サイバー)
"世界を騒がすガチマジアイドル" をコンセプトに掲げて活動するアイドル・ユニット。苺りなはむを中心としたユニット "BPM15Q" を前身として、2016年12月に苺りなはむ、小犬丸ぽちによって結成。2018年3月より、苺りなはむ、小犬丸ぽち、ましろ、病夢やみい、藤城アンナの5人体制で活動している。
http://icigostyle.com/cy8er

■ huez (ヒューズ)
2011年結成。アート、演劇、工学、映像、身体表現、デザインなど、様々なバックグラウンドをもつメンバーからなるアーティストユニット。「フレームの変更」をコンセプトに、レーザーやLEDなどの特殊照明によるライブ演出から、МVやガジェットの制作まで、アーティストやオーガナイザーと同じ目線に立ち、その世界観や物語を重視する領域横断的な演出を強みとする。
http://huez.shibucity.com/

■ としくに
ステージディレクター・演出家。渋都市株式会社代表取締役市長。演劇領域での舞台監督や、メディアパフォーマンスの「インターネットおじさん」などの活動を経て、2016年に渋都市株式会社 (旧:渋家株式会社) を設立し、代表取締役に就任。「笑い」と「ホラー」をテーマとして、既存の枠組みを越えた映像・空間演出のディレクションを手掛ける。

おまけ:さっぱりぱりぱりパリジェンヌ


(Drawing=Sanae Sugai, Text=としくに)

■ Sanae Sugai
https://suzuri.jp/sanaesugai

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