Aphex Twin「T69 Collapse」MVはどう作られた? 映像作家・WEIRDCOREに聞く

Aphex Twinはどのようなアーティストなのか

ーー「T69 Collapse」という楽曲とAphex Twinについても教えてください。「T69 Collapse」はどのような作品だと解釈していますか? また、あなたにとってAphex Twinはどのようなアーティストですか? また、もしアルバム『Collapse EP』をすでに聴いていたら、その感想も教えてください。

WEIRDCORE:このトラックでは沢山のタイプの機材が使われているんだ。だから、ビデオでもその機材の種類の多さを表現したかった。僕は90年代後半からずっと彼のファンなんだけれど、「T69 Collapse」で、彼はその頃に戻っていると思う。実験的で、よりドラムンベースっぽいヴァイブが感じられるんだよね。ドラムンベースとはいったけど、僕はそれが彼バージョンのフットワークだと思ってる。このトラックではそこまでかもしれないけど、EPに収録されている他のトラックにはそれがもっと見られると思うよ。Jlinのリチャードバージョンって感じのトラックが多い。彼が最近リリースしている作品とは違うタイプのトラックだよね。

 アーティストとして彼をどう思うかは答えるのが難しい。というのは、彼とはもう10年以上の付き合いだし、彼のことはリチャードとしか見れないから(笑)。一つ言えるのは、彼との作業がこの世でベストな仕事であるということ。彼はすごく地に足がついていて、エゴが全くないんだ。メディアに出すぎもしないし、彼はすごく周りのことを気にかけている。だから、作業していてすごく心地がいいんだよ。

 EPは去年の8月からずっと聴いている。〈Warp Records〉が最初にトラックを聴いたのは今年の4月〜5月だけど、僕が受け取ったのは去年の夏だったからね(笑)。トラックからインスピレーションを受けるために、あのEPは何度も何度も聴いた。さっきも話したように、EP全体がJlinのリチャードバージョンだと思うね。

ーー近年、MVを取り巻く技術環境はどのように変化していますか?

WEIRDCORE:技術的というよりは、消費のされ方が大きく変わったと思う。昔はトークショーやMTV、つまりTVで映像を観ていたけれど、今はそれがYouTubeやInstagramになった。そして、少しだけ見て次の映像に移るという見方をするようになった。僕自身でさえ、ビデオを最初から最後まで見ていると飽きてしまうくらい。それがわかっているし、皆にとってもビデオをじっと見ている時間がないのがわかっているから、僕は長すぎないビデオを作る方が好きなんだよね。音楽は流しておくだけでずっと聴けるけど、ビデオは画面をすっと見ておかないといけない。だから、集中力がいるんだ。リチャードがこのトラックをくれた時、トラックは7分半だった。だから、僕は彼にトラックを短くしてくれと頼んだんだよ。7分だと、皆の集中力が続かないからね。やっぱり見てもらうことが大事だし。

ーー革新的だと感じている映像技術は?

WEIRDCORE:VRは革新的だと思う。björkがVRの作品をリリースしているけど、あれは素晴らしい。他はわからないな。短くなって、より人々に届きやすくなったということくらい。

Björk 'Notget VR'

 トレンドという意味では、今は多くのMVディレクターが、映画のようなMVを作ろうとしているというのがあると思う。ショートフィルムのようなMVが多いよね。僕はそうではなくて、もっと人々を楽しませるものを作りたい方なんだけれど。だから、最近のMVはあまり好きじゃないんだ。80年代のビデオの方がもっと面白かったよね。正直、最近あまりMVを見ていないから変化や革新がわからないんだ(笑)。

音楽におけるMVの役割

ーー音楽におけるMVの役割とはどのようなものだと考えていますか?

WEIRDCORE:一番の役割は、やっぱりプロモーションだと思う。あとはライブの後ろで流すヴィジュアルとして機能すればなお良いと思う。でも、それも完璧でなくていいんだ。ライブで一番大切なのは音だからね。スピーカーが壊れたらおおごとだけど、スクリーンが壊れてもライブはできる。映像はパッケージの一部であって、あくまでも音楽を助けるもの。でも今回は、そのパッケージで映像だけではなくアートワークやポスターやVRヴァージョンなど、色々なことに関われてよかった。ビデオも、今新しいバージョンを作ろうとしているんだ。今できているのはヴァージョン1.1で、次に1.2をリリースする予定。そうやって少しずつビデオを進化させていく計画なんだよ。

ーー影響を受けた日本のクリエイターはいますか?

WEIRDCORE:以前に日本からインタビューを受けた時に、そのインタビュアーが宇川直宏さんと知らずに話を進めて、後になって彼だったということがわかったことがあったな(笑)。僕がヴィジュアルを始めた90年代始めから、彼から影響を受けているんだ。当時、出会った日本人のカップルから彼が手がけた作品のDVDをもらって、そこからハマった。それから、池田亮司のビデオは、時代を超えているよね。あのテキストを使った部分なんかも面白い。

 あとは、『キルラキル( KILL la KILL )』っていうアニメの監督(今石洋之。TRIGGER所属)からは影響を受けている。あの作品は最高。ドラゴンボールのアダルドバージョンのような感じで、すごくスタイリッシュなんだ。ラムちゃんみたいなユーモアとセクシーさもあるし、90年代と比べて最近のアニメはそこまで好きではないんだけど、あの作品は素晴らしいと思うね。

(構成=松田広宣)

■リリース情報
Aphex Twin『Collapse EP』
発売中
初回限定盤CD:¥2,200+税
シルバー・スリーヴケース付き/ステッカー封入/解説書封入
通常盤CD:¥1,600+税
ステッカー封入/解説書封入
輸入盤CD:¥OPEN
限定輸入盤12":¥OPEN
シルバー・スリーヴ仕様
輸入盤12":¥OPEN

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