『ニンジャバットマン』テクノロジー描写に見る、西洋世界と東洋世界の調和

『ニンジャバットマン』に見る日本アニメの特徴

 本作でこれを埋めるのが、日本の文化における「ニンジャ」の存在ということになる。闇にまぎれて隠密行動を行い、手裏剣や、まきびし、その他もろもろの道具を利用する忍者は、バットマンの特性に酷似している。それは、『バットマン ビギンズ』(2005年)同様、東洋文化にそのルーツを求める行為である。資金とガジェットを失ったバットマンが、日本の職人的な技術や精神性を謙虚に受け入れる柔軟な姿勢を示したとき、いままでコミック風に描かれていた背景は、一気にアニメーション風の絵柄へと変わる。ここで“戦国日本”は、はじめて“バットマンが生きる世界”に変わった。これが示すのは、西洋世界と東洋世界の調和だ。そして、本作におけるバットマンの力は、多様性を受け入れ、他者を尊敬する態度によってもたらされるのである。

 戦国時代のテクノロジーを利用した武器は原始的であるが、当時の人間が生み出した叡智の結晶であったことはたしかだ。また本作の脚本では、農民が日本を支えていたという点に触れることを忘れていない。農業こそ、自然の循環システムを利用した、テクノロジーの土台と呼べるものである。

 この時代、武器も食べ物も必要不可欠な物であったにも関わらず、農民はもちろん、刀鍛冶など職人の身分は一部を除いて低く、全体的に貧乏な生活をしていたという。働く職人たちが仕事に見合った報酬を得ているかどうかが疑わしい状況は、職種によっては現代もそれほど変わっていないように思える。その最たる例が、日本の末端のアニメーターであろう。

 「妥協は死」—。これが神風動画の社訓である。志あるアニメーターたちが、今回のように世界の舞台で、のびのびと特徴を発揮して活躍できる機会が増えると、日本におけるアニメーターの地位も高まってくるのかもしれない。そういう未来の希望を予感させる『ニンジャバットマン』であった。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

 ■公開情報
『ニンジャバットマン』
全国公開中
監督:水﨑淳平
脚本:中島かずき
キャラクターデザイン:岡崎能士
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:神風動画
<出演>
バットマン:山寺宏一
ジョーカー:高木渉
キャットウーマン:加隈亜衣
ハーレイ・クイン:釘宮理恵
ゴリラ・グロッド:子安武人
ポイズン・アイビー:田中敦子
デスストローク:諏訪部順一
ペンギン:チョー
トゥーフェイス:森川智之
ベイン:三宅健太
ロビン:梶裕貴
レッドロビン:河西健吾
ナイトウィング:小野大輔
レッドフード:石田彰
アルフレッド:大塚芳忠
配給:ワーナー ブラザース
Batman and all related characters and elements are trademarks of and (c)DC Comics. (c)Warner Bros. Japan LLC
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/batman-ninja/

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