日本のブランドにも考えてほしい、Instagramとファッションビジネスの親和性

 日本にあって海外にはないものと聞いて、何を思い浮かべるだろうか。筆者は現在米国に住んで6年ほどになるが、よく想起されがちな梅干しや納豆といった食材は、じつは意外と簡単に入手できる。それよりむしろ入手しがたいもののひとつは、手ごろで質の良い洋服やバッグといったファッション商品である。

 もちろん米国には百貨店もショッピングモールも数多くあり、商品そのものは足りないどころかむしろ溢れかえっている。ニューヨークのような都市には世界中のラグジュアリーブランドが集結しているし、郊外のショッピングモールには判で押したように何らかのファストファッションの店舗がある。だが日本に多いラグジュアリーとファストファッションの中間的なブランドは、都市部ですら手薄に感じられる。日本に帰って久しぶりにファッションビルなどに行くと、コストパフォーマンスが高く気の利いたデザインの商品の層の厚さに感動してしまう。「クール・ジャパン」の旗印でアニメやマンガが輸出されているが、日本のファッション商品にも十分外に向けて売れる力があると思う。

 そういった意味でやや残念に感じるのが、日本のファッションブランドにおけるInstagramの利用度が低いことだ。ライターとしてファッションブランドやショップについて調査することが多いのだが、海外では大手でもスモールビジネスでも、アパレルや化粧品のようなビジュアルに関するビジネスはほぼ必ずInstagramを充実させている。Instagramのフォロワー数の多いアカウントからセレブリティを除いたランキングを見ると、ヴィクトリアズ・シークレットやシャネル、H&M、ZARA、ルイ・ヴィトンといったアカウントがトップ15に入っており、最多のヴィクトリアズ・シークレットは現在5900万人以上のフォロワーを擁している。

 一方日本のファッション・ビジネスは、比較的有名どころでもInstagramを運営していなかったり、運営していても内容が薄かったりすることが多い。日本の法人アカウントのランキングを見ると、ファッション関係でフォロワー数が最多なのはKENZOだが、同社はLVMHグループ傘下にあって欧米での展開が中心で、日本の会社とするのは不適切と思われる。それ以外ではコム・デ・ギャルソンやユニクロ、A Bathing Ape、MUJI(無印良品のグローバルアカウント)などが上位となっているが、いずれも海外を意識して英語で発信しているブランドばかりである。逆に言うと、日本向けにしか発信していないブランドは、顧客数が多くてもフォロワー数は相対的に少なくなっている。

 すでに顧客数が多いならInstagramに力を入れなくてもいいという考え方もあるかもしれないが、そこにはふたつの問題がある。ひとつめは、日本国内でも特に若い層の女性がInstagramを見て過ごす時間が増加しており、そこにプレゼンスを持たないブランドは彼女たちに効率良くメッセージを届ける機会を逃してしまうということだ。ニールセン デジタルガイアックスによれば、日本でもInstagramの利用を牽引するのは10代から30代女性で、現在も増加傾向にある。またソーシャルメディアには他にもLINEやTwitterなどさまざまなものがあるが、インテージによればInstagramは「おしゃれな空間」と認識されており、ファッションとの親和性が高くなっている。

 もうひとつの問題は、Instagramで得られるであろう海外のファンを逃していることである。たとえばフランスのMaison Cleoというブランドは、ファッションメディアのMan Repellerを運営するLeandra MedineにInstagramで見出されたことをきっかけにブレイクした。母娘でブラウスやワンピースを作って100ユーロ(約1万3000円)前後で販売する小さなブランドだが、今では需要に供給が追いつかず、毎週水曜日にだけオンラインストアをオープンして限定販売している。このようにInstagramを中心に展開するショップは「Insta-shop」とも呼ばれ、小規模なヴィンテージショップやスタートアップブランドを中心に現在急増している。中にはリアル店舗はもちろんオンラインストアのシステムすら持たず、InstagramのDMで注文を受け付けて発送するショップもある。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる