プロゲーマー・梅原大吾出演『プロフェッショナル』で語られたことと、語られなかったこと

 プロゲーマーの梅原大吾(ウメハラ)が、3月19日の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演した。

 番組では、17歳にして世界一に輝いた経緯と、そのことを「恥ずかしい」とすら思っていた過去が明かされた。大好きな格闘ゲームを突き詰めたいという思いと、「やっても褒められず、むしろ怒られるもの」を続けることへの葛藤ーーファンには知られたエピソードだが、梅原が歩んできた「プロゲーマー」なき時代の道のりは、自分の個性が認められないことへの苦悩に満ちたものだった。海外の周辺機器メーカーからスポンサードを申し入れられ、それでも悩んだ末に「プロ」になった梅原は、ファンの喝采を受けて、喜びと感謝で満たされたという。

 プロゲーマーの道を切り開き、今なお第一線で活躍する梅原。eスポーツというトレンドの中心にいる彼は、一見すると「ゲームがうまいだけで、楽な道を歩いてきた」と思われるかもしれない。しかし、放送を見た視聴者はその認識をあらためたはずだ。長時間のプレイに耐えらえるようにと、常に眠たそうに瞼を落としている目。また4年半付き合い、同棲していた彼女が、愛犬を連れ、家電も持って出て行ったと、あっけらかんと語る姿。「何かを捨てることでたどりつける境地なのだ」と感じた視聴者も少なくないかもしれない。

 番組は、世界中で年間を通じて行われる大会のポイント上位者のみが出場する「カプコンカップ2017」でクライマックスを迎えた。争われるタイトルは『ストリートファイターV』。夏にラスベガスで行われる「EVO」と並び、格闘ゲーマーの晴れ舞台で、梅原は7位タイという結果だった。梅原は自分のプレイが人に感動を与えたのは、いつも単純に自分が楽しんでいたときだとして、「思いっきりゲームを楽しむことが、今の自分の仕事だ」と語る。梅原は“プロフェッショナル”という言葉について、「自分の仕事に感謝を持ち、それを態度や行動で示すこと」とまとめた。

 格ゲー界のレジェンドの半生に迫る、充実したドキュメンタリーだった。しかし、YouTuberのヒカキン、データサイエンティストの河本薫と並び、「時代が生み出した新しい仕事のプロたち」とくくられた回だけに駆け足の部分もあり、特に格闘ゲームシーンを追いかけてきた視聴者には、若干の消化不良を残した人もいるのではないか。つまり、「ウメハラはもっと面白く、もっと強い」と。

 例えば、GODSGARDENやTOPANGAを始めとする格闘ゲーム団体・コミュニティーによる配信番組、あるいは梅原が主催する「Daigo the BeasTV」を見れば、トップ層の格闘ゲーマーがいかに個性的で、高いタレント性を持っているかがよくわかる。アーケードで育った彼らはプロレス的な煽り合いもお手のもので、チャリティーイベントなどで梅原が見せるトークはーー当然、プレイヤーの関係性やシーンの文脈にも依存する内容だが、ときに腹を抱えて笑うほど面白い。

 また番組では、梅原が週に4日通うという、海外選手も含む強豪が集まる練習部屋の様子が収められていた。梅原が主戦場としている『ストリートファイターV』がアーケードで稼働していないため、ゲームセンターではなくマンションの一室に集まっているわけだが、放送では梅原が、現在世界トップの一角である東大卒プロゲーマーのときどに3連敗している。梅原はそこから自室のモニターに向かい、60分の1秒のプレイ精度を追求し、対策を練った。プレイスタイルをガラリと変えたが、後日、周囲に驚きを与えながらも、やはりときどに敗れている。最後に「楽しむことが仕事」と語り、大会ベスト8に満足げな表情を見せていた梅原は、よく知らない人にとっては、「いまや世界トップの選手ではなく、別のステージに進んでいる」ようにも見えたかもしれない。

 しかし、梅原は3月10日、自身が主催する格闘ゲームイベント『獣道弐』において、10ゲーム先取のルールで、ときどに10-5で勝利を収めている。さらに突き詰めた対策の力と、長期戦の強さ。運に左右されることもある短期的なトーナメントより、格闘ゲーマーとしての地力が問われるとも言われる長期戦において、梅原は極めて強いのだ。試合後、梅原の背中を追いかけ続けてきたときどが涙を流していたのが視聴者の感動を誘ったが、その理由はまたの機会にしよう。ときどには、ときどのドラマがある。

 eスポーツというムーブメントは、ゲームを生業にする彼らにとって、基本的にはよろこばしいことだろう。しかし、『プロフェッショナル』で語られたこと、あるいは語られなかったことも含め、プロゲーマーの実像と加熱するブームには、少しギャップがあるのも事実だ。梅原は2月4日、NHK文化センターでの講演において、暗中模索でプロゲーマーの道を切り拓いてきた経緯と、周囲が大きく動き出した現在の状況を踏まえ、「一番楽しい時期は終わりを迎えつつあるのかもしれない」と語った。舗装された道を歩く後進のプロゲーマーたちはしかし、その功績を讃え続ける。そのなかで、依然として強く、飄々とした背中を見せる梅原は、eスポーツを浮き足立ったブームで終わらせないための重石になっているように思うのだ。

(文=橋川良寛)

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