望むのなら君は未来のバーに行くことだってできる、インディーゲームならねーー『VA-11 Hall-A』レビュー
「インディーゲーム」という言葉をご存知だろうか。ゲームを作る会社から独立した人、あるいは小規模なチームや個人が作ったゲーム作品のことをこう呼ぶことが多い(細かい定義はいろいろと難しいのだが)。
ともあれ、インディーゲームの特徴はやはり“作家性が出やすい”ということだ。大手のゲームとは異なり、自分たちが作りたいものを自分たちの手で作ったような作品が多く、結果的にそのどれもが独特になりやすい。インディーゲームという言葉はここ数年でゲーマーにもかなり浸透しており、同時にあまりゲームを遊ばない人からも注目を集めている。
さて、今回の記事で紹介するのはまさしくインディーゲームらしい一作だ。このゲームを作ったのはベネズエラのSukeban Games。ベネズエラという時点でピンと来なくてもおかしくないし、それなのに“スケバン”なんて日本っぽい名前だ。おまけにゲームのタイトルは『VA-11 Hall-A』と、読めなくてもなんら不思議ではない。
世にも珍しい「サイバーパンク・バーテンダーアクション」
そしてこの『VA-11 Hall-A』──読みづらいのてカタカナで書こう──『ヴァルハラ』は、ゲーム内容もとても珍しい。ジャンルはなんとサイバーパンク・バーテンダーアクション。とにかく不思議で、まるで遊んだ人を異世界に連れていくかのようなゲームなのだ。
『ヴァルハラ』の説明を聞いて難しそうに思えただろうか? だが安心してほしい。本作においてプレイヤーは、バーテンダーの「ジル」となって客にカクテルを提供することになるのだが、それはマニュアルもあるしだいぶ簡単だ。しかも仕事の大部分は客の話を聞くことになる。
ジルが住む場所は、西暦207X年のグリッチシティ。全市民には監視用のナノマシンが注入されており、悪徳企業や政府が管理するディストピア……ともすれば地獄のような場所である。そんな世界に救いがあるとすれば、一杯のアルコールくらいだろうか。
遠い未来のディストピアということで、店に訪れる客はさまざまだ。この世界では同性愛者であることがそれほど珍しいわけではないし、喋るコーギーが酒を飲みに来ることもあるし、猫耳がついたキャットブーマーと呼ばれる人もいるし、ついでに「リリム」と呼ばれる人型のAIロボットもたくさんいる。ジルはそこで客の注文を聞き、時には酔った彼らがこぼす愚痴や秘密、あるいは猥談をも聞くことになる。
グリッチシティの情勢はとにかく不安定で、ジルが働く店の近くで爆発音らしきものが起こったり、ハッカーの大規模な攻撃が仕掛けられたり、あるいは銀行で大事件が発生したりする。しかしこのあたり、『ヴァルハラ』においてはあまり大きな意味を持たない。世界がどんなに大変なことになっていようとも、確かにそれは大きな問題であり人々が考えることもあるものの、それでも人は自分の問題に手一杯だ、というのが本作のテーマのひとつなのだ。
たとえばブロンドのアルマは、ステキな旦那さんが見つからないことを日々悩んでいる。彼女は優れた技術でハッカーとしての仕事をこなしており、かつ美人でスタイルも抜群。にも関わらず誰と付き合ってもあまりうまくいかない。ジルは彼女の好きなブランディーニを提供しつつ、その愚痴をバーテンダーとして、あるいは友人として聞くのである。
時には瓶詰めの脳みそが店に現れることもある。まさしく未来という感じだが、脳しかなくても人は人だ。何よりこの脳みそは意外な実績を残しており、客たちの話をじっくりと聞くとその秘密が明らかになる。店に訪れる客はそれぞれのパーソナリティーを持っており、ジルはバーテンダーという立場だからこそ、その一部を知ることができるのだ。