「アーティストには未来予知の責任がある」トラックメイカー・Seihoが示す、音楽の役割と可能性

「感情のログ」を取れるようになったら、世界は変わる

――ここ最近、Seihoさんの名前はより広く知られるようになったと思うんです。たとえば三浦大知さんに提供した「Cry & Fight」が紅白歌合戦で歌われたりするようなこともありました。

Seiho:そうですね。三浦大知くんは前から一緒にやりたかったんですよ。ほんとにタイミングがよかったという。

――同じようなタイミングでカシミア・キャット「Quit feat. Ariana Grande」のリミックスも手掛けていた。

Seiho:カシミアとも4、5年のつきあいなんですよ。『Abstraktsex』を出した頃にObey Cityと日本で公演をやったんですけど、彼もカシミアもレーベルが〈Lucky Me〉なんですよ。それから連絡を取ってて。

――それって、さっき言ってもらったような猿の芋洗いの話ですよね。4、5年前に日本とノルウェーで同じ感覚を持って繋がっていた。だから、傍から見るとアリアナ・グランデとも三浦大知ともやってすごいですね、ってなるけれど、本人としては数年前に蒔かれた種の結果である。

Seiho:そうそう。そっちのほうが大きいです。

――では、そのことを踏まえて、未来のことを訊ければと思います。昨年の後半から今年に入っての今に起こっている動き、まだ世の中の人が気付いていないかもしれない雰囲気やテイストに関して、Seihoさんが感じているものって、どういうものがありますか?

Seiho:うーん、なんというか、振り返ると一昨年から昨年くらいまでが区切りだったんだと思うんですよ。収穫が終わった冬の時期だったというか。今年からは春がはじまるから、昨年までにどれだけ準備してたかっていうのが勝負になってくる。今の音楽シーンについて考えるなら、そういう感じが大きいかな。

――2000年代後半に生まれたテクノロジーやサービスが10年代のカルチャーを形作ったわけじゃないですか。それと同じように、今生まれているテクノロジーが2020年代のカルチャーを作っていくと思うんです。そのあたりに関してはどうですか?

Seiho:そういう進歩って、斜めに上がるというより、垂直に上がると思うんですよ。で、2010年代にそれが上がったタイミングはSNSだと思うんです。SNSができたことによって、いろんな波が発生してるわけで。

――そうですね。

Seiho:そう考えた時に、音楽が出来ることは何かというと、音楽って時間芸術なんですよ。時間をつかさどる。これが共感を生んで、思い出としてみんなの中に入っていく。今父親が50代なんですけど、彼が20代で聴いていたジョン・コルトレーンの話は普通にできるんですよ。でも、本当は20歳の親父と今の僕が直接話せたらめっちゃ嬉しいじゃないですか。これからはそれができるようになるんじゃないか、と。

――というと?

Seiho:音楽が記録芸術として残っていくのと一緒で、その時の感触や感じたことも、全員が残していけたら、それが可能になるんですよ。この先はそういう考え方になっていくんじゃないかと思うんです。感情がどこまで残せるかわかんないんですけど、ログをとって対話するようなことができるかもしれない。

――なるほど。これまでのテクノロジーの進化を振り返ると、もともと日記がその役割をしていたわけですよね。そこから200年前くらいに写真という発明が生まれて、みんながアルバムに写真を残すようになった。で、今は動画を残せるようになってきている。どんどんコンテンツはリッチになってきている。

Seiho:そうですね。で、その先に感情とか、気持ちとか、そういう状態そのものをログでとれるようになったら、だいぶ世界は変わると思います。やっぱり、記憶って、時間が経つと改竄しちゃうじゃないですか。だから、その人の10代とか20代の時と喋れるようになったらいいなと思うんですよ。

――しかも、そういうテクノロジーが進化したら、おそらく人々の振舞いとか発想が変わりますよね。さっき言ったような「芋を洗う猿」が同時多発的に訪れる。

Seiho:そうそうそう。

――「IoT」って言葉があるじゃないですか。インターネット・オブ・シングスといって、全てのものがネットワークでつながるという。それになぞらえるならば、「IoH=インターネット・オブ・ヒューマン」とか、「IoE=インターネット・オブ・エモーション」みたいなこと、つまり感情そのものをデータ化して記録できるようなテクノロジーが生まれるかもしれない。そういうときに音楽は、ひとつ先を行ける表現方法だと思いますか?

Seiho:さっき言ったように、音楽は時間を司っていることを逆手に取るというか。絵画を見た時の感動って、1秒見てるのか、10秒見てるのか、1時間見てるのかによって、変わっちゃうじゃないですか。でも、音楽は、0秒からはじまって3、4分の間の感情のログを取れる。そこを考えると、エモーションのデータ化はやりやすいんじゃないかなと思いますね。それができたら逆のこと、つまり脳に直接感情を入れることも可能になる。音楽を使ってエモーションが発生するメカニズムをデータ化できたら、そのデータだけを頭に入れまくって、気持ちよさだけを浴びる、みたいな(笑)。

――可能ですよね(笑)。

Seiho:この帯域でこの音が鳴ってたらめっちゃテンション上がるとか、こういうブレイクがあったら気持ちよくなるとか。幸福度のログをとるのは、音楽の方が簡単にできそうな気がするんですよね。そういうものが生まれたら、音楽の形も一気に変わるのかなって思います。そんな時代になったら、たぶん僕は反発して、もっと美しい音楽を探しに出掛けるでしょうけど。

(取材・文=柴 那典/写真=下屋敷和文)

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