『ブラッサム』少しずつ笑顔を取り戻していく珠の胸中は? 家庭の幸せと夢との葛藤

NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第6週「ふたり、北へ」で、北海道へと移住をしてきた珠(石橋静河)と保(金子大地)は、親戚の正吾(三宅弘城)やその妻の浪江(杉田かおる)の支えもあり、新天地で穏やかな日々を送っていく。北海道の遅い春が気持ちを少しずつ溶かしていき、珠に久しぶりの笑顔が戻るものの、そこには文学や小説の欠片、香りは微塵も立ち上ってはこない。
珠が札幌の地で向き合うことになるのは、服の仕立て。借家に置かれている机で珠は原稿ではなく、仕立て屋として裁縫に没頭していく。仕事を頼まれることが好きで、そのことに救われるという珠。この第6週、ひいては北海道編を象徴するのは、珠が心を打たれた浪江の足袋。何度も繕われているものの、汚れひとつない綺麗な足袋は、これまでその人がどのような人生を歩んできたのか、人となりを表しているようである。第30話で珠が保に言う「しっかり繕うたら、しぶとく強くなるんです。うちもそう。はあ平気じゃ」というセリフと涙ながらの感謝の言葉が、2人が札幌に来た意味そのものだ。それから1年が経ち、珠は近所に住む妊娠中のアキ(佐々木ヤス子)からの依頼で、浴衣から赤ん坊の肌着を縫い上げることもできた。本郷の下宿で作りきれなかった肌着を手に泣いていた、あの珠が。道民のたくましさ、フロンティア精神に感化されるようにして、珠は笑顔を取り戻し、少しずつ立ち直っていく。
「芸は身を助ける」とはよく言ったもので、珠の裁縫の腕前は女学校時代に習得したものだ。珠のモデルである宇野千代の自伝『生きて行く私』(角川文庫)には、どこへ行っても“仕立て屋の姐さん”と呼ばれるようになったこと、そして「後年、私がきものデザイナーと言われるようになって、生活を支えることができるようになったのも、このときの続きであった。」と綴られている。
一方の保は正吾の下で札幌拓殖銀行で働いている姿は描かれずに、夫として珠を気遣う様子と加入する頼母子講の寄り合いでのやり取りに絞って描かれている。印象的だったのは、新入りとして一人で呑んでいた初めての寄り合いから、1年後、いまだ新入りと呼ばれながらもすっかり輪の中に溶け込んでいる保の笑顔。珠がクニ(山本香織)やトミ(泉希衣子)の旦那への文句を面白おかしく聞く溜まり場での光景と似た、温かな幸せがそこにはある。
そして、保が掴み取った頼母子講での千円という大金。「これまで、わしらにもいろいろあったよのう。風向きが変わってきたで!」と胸躍らす保と珠だったが、身の丈に合わない大金だからか、しばらく経っても使い道が思いつかないのは、今が幸せであることを示している。
何にも困ることのない、不自由のない生活。ただそれは言い換えれば、だらっとした、ゆるい幸せにも映る。もちろん平穏な日常の中で感じる幸せを否定するわけでは決してないが、私たちは好奇心の赴くままに駆けていく、ペンを走らせる珠という人物を知っている。同時にそれが保と向き合うということとは同義ではないことも。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、高良健吾、金子大地、赤堀雅秋、イッセー尾形、川島潤哉、中村優子、井浦新、遠藤憲一 ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK





















