『ブラッサム』井浦新の細やかな感情の機微 豪胆な編集長を支える“静”の役割を担う

『ブラッサム』で井浦が演じる山中は、豪快な上司の黒崎とは対照的に、落ち着いた物腰で周囲の様子を見ている。黒崎は思ったことを遠慮なく口にするタイプだが、山中はその勢いに流されず、冷静に物事を判断するタイプ。2人のやり取りには、どこか互いの仕事ぶりをよく知る者同士の気安さがあり、井浦の抑制の利いた芝居がその関係性を際立たせている。
それがよく表れていたのが第24話。珠は店を出ようとする黒崎を呼び止め、自分の書いた小説を差し出す。山中は「編集長は大変お忙しいんだ」と制止するが、黒崎は珠の度胸を面白がり、原稿を受け取った。一方、山中は帰り際、珠に厳しい視線を向けている。無名の書き手がいきなり編集長に原稿を渡すという行為は、彼にとって簡単に受け入れられるものではなかったのだろう。黒崎にとっては興味をそそられる出来事でも、山中からすれば仕事の順序を飛び越えた行動。2人の立場の違いが、珠への反応にも表れていた。

そんな山中が、ふと表情を変える場面がある。珠の小説を読んだ黒崎は本人に直接「稚拙。つまらん」と伝え酷評したものの、最後にはまた原稿を持ってくるよう促した。その言葉を聞いた山中は、わずかに眉を上げ、黒崎へ視線を向ける。そこで山中も黒崎の真意を察したのだろう。黒崎の言葉に隠された期待が伝わってくる、印象的な一幕だった。
その予感を裏付けたのが第25話だ。黒崎は山中に、珠の小説は未熟ながらも、純粋さゆえに読み手の心をえぐる瞬間があったと打ち明ける。それを聞いた山中は「ただ器量のいい女給ではないと」とさらなる驚きを示した。この時点ではまだ、珠は彼にとって“編集長に突然原稿を差し出した大胆な女性”を超える存在ではなかったのだ。山中は最初から珠の才能を見抜いていたわけではなく、むしろ偏見に近いものを持っていたのだろう。その認識が少しずつ変わっていく様子が、井浦の細やかな芝居から見えてくる。

井浦は『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ブラッサム Part1』(NHK出版)の中で、黒崎を“動”、山中を“静”と表現しながらも、2人の間には深い信頼関係があると語っている。演じる際は「山中の黒崎への信頼や文学に対する情熱を、こまやかなところでにじませたい」と考え、淡々とした台詞も監督と相談しながら生っぽい表現で発することを心がけているという。確かに、黒崎の言葉を受け止める山中の自然な間合いにも、そうした思いが感じられる。井浦の抑制の利いた芝居によって、冷静なだけではない山中の人間らしさが浮かび上がってくるのだ。
黒崎が珠の小説に可能性を見いだした一方、山中はまだ彼女の真価を測りかねている。山中が珠の才能を認めるとき、その心の変化を井浦はどう表現するのか。そんな先の場面まで気にさせてしまうのが、井浦新という俳優の巧みさなのだろう。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK




















