川口春奈の演技はなぜ胸を打つ? 『ママがもうこの世界にいなくても』が問う俳優の覚悟

 ゼロから立ち上げたフィクションと、実話をもとにしたフィクションでは、どうしたって作品の強度が変わってくる。目にしているのが作り話ではなく、自分と同じような人間が生きた時間を描いたものだと理解するとき、私たちの心は激しく揺さぶられるものだ。ときに完全なるフィクションに真実を見出すこともあるが、実際にあった本当のことというのは、この真実の大きさの規格が変わってくる。そして、実在の人物を演じることには、計り知れないプレッシャーがあると聞く。

 主人公・和を演じる川口といえば、この世代を代表する俳優だ。ドラマ『silent』(2022年/フジテレビ系)をはじめ、さまざまなエンターテインメント作品で主演を務めてきた。長年の経験で培ってきた技量も、作品の看板を背負い続けることで得られる華も、ともに持ち合わせている演技者である。主演俳優の器の持ち主として、誰も疑わないだろう。しかしながら繰り返し述べているように、本作の下地となっているのは実話であり、たしかにあった本当のこと。技術と華があるからといって、役も作品も成立させられるわけではない。

 和の病の進行に合わせた減量が話題だが、それはこの役を演じるために行ったひとつのアプローチに過ぎないだろう。やはり注目すべきは、途方もないプレッシャーの中で、いかにして和という役とこの作品と向き合っていったのか。そのひとつの結果の表れとして、10キロもの減量があるのだと思う。

 劇中で変化していくのは、その身体の状態だけではない。不可逆的な時間の流れの中で、少しずつ強さを失っていく精神的な変化も声の質感や表情といった細部で表現している。はっとさせられたのは、クライマックスだ。和はみるみる弱っていくいっぽうで、存在そのものは希薄になるどころか、より際立っている。演じる技術を超えた、ただ懸命に役を生きようという気迫が、ここにはある。“実話=本当のこと”からしか生まれない力に、演技者の覚悟が呼応した瞬間なのだろう。「俳優とは何なのか?」という問いの答えを、川口春奈は示している。

■公開情報
『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』
全国公開中
出演:川口春奈、高杉真宙、松本穂香、中島瑠菜、清水くるみ、笠原秀幸、豊本明長、一ノ瀬颯、星野真里、森田望智、デビット伊東、小林聡美
原作:遠藤和『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』(小学館刊)
監督:山戸結希
脚本:樋口幸之助、山戸結希、藤野眞功
音楽:Vampillia
主題歌:Vaundy「しわあわせ」(SDR)
配給:東映
©遠藤和/小学館 ©2026「ママがもうこの世界にいなくても」製作委員会
公式サイト:https://mamaseka.toei-movie.com/
公式X(旧Twitter):@mamaseka_movie
公式Instagram:@mamaseka_movie

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