『会社員』の緊迫の世界観はいかにして生まれた? 脚本家4人が明かす共同執筆の裏側

演劇界、アニメ業界、それぞれの「当たり前」

――第1回の英理子夫婦のやりとりも印象的でした。ハラスメントの訴えについて、英理子は「こっちは散々やられてきた世代なのに」と言い、コンプライアンス室の夫は「いい時代になったよね」と言う。

あさか:それこそ、松井さんがちょうど英理子に近い世代で。松井さんのお話が、いろいろ参考になった気がします。

松井:僕の世代の話はたくさんあって。演劇界でのハラスメントは本当に恥ずかしくなるぐらいで、そこで生きていくというような場だったので。演劇界に限らないかもしれないですけど、割と閉鎖的なところなので、最近までずっと残っていた事例みたいな話は結構しましたね。

――松井さんご自身は、昔から違和感がありましたか。それともどこかの時点で「これはまずいだろう」と。

松井:ぼくは20年ぐらい前には「青年団」という劇団で活動していたんですが、主宰の平田オリザ氏はその頃からハラスメントにすごく厳しかったんです。だから僕自身はハラスメント的な言動にアレルギーがありました。でも、よその現場に行くと年長の人が年下の人に対して態度が大きいのも目の当たりにして。特に作品作りに関して、「本気でつくるならある程度のハラスメントも許される」という風潮の現場も経験してきたので、ズレを感じましたが、自分の劇団ではハラスメントがないように努めました。ただし、今思い返すとそれも徹底できていたという自信はありません。

――第1回でも「女子供は」といったセリフが何度も出てきます。明らかにダメだと思いつつ、こういうことを言う人、今も実際にいますよね。

あさか:ニュースを見ていても、「もうさすがにこの時代にありえないでしょう」ということが起こっているのが現実かなと思います。同年代の話を聞いていると、まだ過渡期なのかなと。上の世代の話を聞くと、英理子の世代の方は、「お前の代わりなんていくらでもいるんだ」「ここ出たらお前に価値なんかないんだ」みたいなことを普通に言われていたそうで。世界がまったく変わったということはない、今も続いていることなのだという意識は、多分あります。もちろん、女性に限らず普遍的なことではあると思いますが。

名嘉:まだまだ全然あるよなとは思いますし、私は結構敏感にキャッチしてしまうときもあります。「気にしなくていいのに」と思いつつも、「あれ、これってどういう意味? これは私が男だったら、言われたかな」とか思ったり。笑顔でいないというだけで、常務の安西さん(尾美としのり)みたいに「怖いよ、眉間にシワ寄ってるよ」って言う人もいる。いつもニコニコしてなきゃいけないみたいな圧はすごくあって、そうした話はそこら中に転がっているものだと思うので、書きたいと思いました。

行ったり戻ったりを、何度も繰り返した――構成に半年

――3行のログラインを、4人で8回に紡いでいく。構成には、どのくらいかかったんですか?

縦谷:最初に構成を8回分。プロデューサーもディレクターも入って、そこまでが相当長かったですね。去年の11月から始めて、今年の4月ぐらいまでやってました。途中まで決めていたものを、一回白紙に戻そうみたいなこともありましたし。登場人物ごとに、どういう目的でやってるんだろうとか、テーマがブレていないかとか、行ったり戻ったり行ったり戻ったりを何度も繰り返しています。

名嘉:後半になると、どんどん難しくなって。全8回の流れを作るのが一番大変でした。この話は最終的にどうなっていくのが面白いのかなとずっと考えていて。組織と個人の話なのか、会社の話なのか、英理子の話なのか、それとも英理子とるりの対決なのかとか。

――どこに寄っていくかは、しっかり決めてスタートしたわけではなかったんですね。

縦谷:もともとは決めていたつもりなんですけど、気づいたらジャングルをみんなで探検しているような感覚でした。この道かなと思ったら、道が途絶えているみたいな。で、戻ってきて、みたいな。本当に、誰も正解はわからないので。

――中継地点もゴールもがっちり決めて、それを最優先すると、人間が生きてこないんでしょうね。「被害を軽く扱わない、消費しない」ことと「エンタメとして成立させる」ことのバランスもありますし。

松井:そうかもしれません。今回、第1期(『3000万』)をさらに発展させて、ハラハラドキドキさせつつ、キャラクターの内的な変化をしっかり描こうというのを目標にしていたのもあって、そこはやっぱりすごく難しい。エンタメ性と両立させていくのが、苦しいんだなという。

あさか:内面のことって、掘り下げれば掘り下げるほど、その人個人の背景だったりするものなので、逆にプロットの展開は止まる部分ももちろんある。その辺の塩梅が非常に難しかったなとは思いますね。

突破口を開く人、違和感を言う人、図にする人

――持ち場の違う4人を、どうやってまとめていったんでしょうか?

松井:チーフ演出の保坂慶太さんや制作統括の上田さんが「じゃあこの方向で」と仕切ってくれて。その方向は一応フィックスで、次はどうするかを考えていくんですけど、時々振り返って、これでいいのかなと戻ることもあって。ある登場人物がどういう状態なのか、抵抗しようとしているのか、屈服しているのか。それがこの4人でも違ったりするので、迷ったときにはもう一回遡って考えるみたいなこともしました。

あさか:「英理子ってどんな人物かな」というのが、自分の中でずっと浮いていた部分があって。展開を考えているときに、松井さんが「英理子って、こういう人なんですね」と言った瞬間に「なるほど」となって、そこから一瞬、道が開けた感じがしたとか。そういうこともありました。名嘉さんも、突破口を開いてくださるシーンも多かったなと思います。ずっと「この人たち、どう動かしたらいいの?」みたいに止まってしまうときに、「じゃあこの人物はこうしたらいいんじゃない?」と言われて「なるほど」となる瞬間は結構あって、そこからまた議論が始まることが多かった気がします。名嘉さんは海外ドラマをめちゃめちゃたくさん観ていて、引き出しが多いので、「あのエピソードで言うと、あの人がこうで」「こういうふうにしたほうが見やすいと思うんだよね」みたいな例がどんどん出てくるんですよ。

松井:僕は、そのシーンの感じで台詞を喋ってみて、「なんか違うよな」っていう違和感を言っちゃうみたいな。でも、僕の場合、代わりの案はなかったりするんだけど。

あさか:それでも「一回ちょっと待って」という言葉で、みんなが立ち止まるみたいなのはありました。実際、そうやって立ち止まったことがきっかけで話の方向が変わったりもするので。また、縦谷さんは本当に構造的な方なんです。一回、エクセルで図解してくれたんですよ。「今、エピソードはこういう立て付けになっていて」みたいな資料を作ってきてくださって、すごい感動したんですよね。全体を俯瞰することをずっと心がけてくださっていて、それをアウトプットしてくれる。それをもとにみんなで「なるほど、今こうなっているんだ」と認識を確認することもありました。

縦谷:ありましたね(笑)。

――「これが正解だ」というのは、4人の中で一致するものですか。

松井:いや、多分一致はしないです。

あさか:どこかで「もうこれで行こう」と割り切っていく部分も、多少あったかもしれない。

――紛糾することは、ありましたか。

あさか:意見が割れて紛糾するというのは、あんまりなかったかもしれないです。

名嘉:ただ、みんなで頭を抱えるみたいなことはずっとありました。

縦谷:ずっとですね。

名嘉:でもみんなすごく粘り強くて。「もういい」とはならない。縦谷さんは「どうしたらこれが流れていくか」って、よく言うんです。みんな、視点が違うのも良かったんだなと思います。

4人の「ここを観てほしい」

――最後に、それぞれ特にここを観てほしいというポイントを一つずつお願いします。

あさか:私は、世代の違う女性2人が作用し合って物語が展開していくというところを、私自身も楽しんで書きましたし、2人の関係性の変化みたいなところにも注目していただけたら嬉しいなと思っております。

縦谷:各キャラクターの心情的な部分ですね。その心情だからこそ、こういう展開になる。そこが絡み合っていくところを、観ていただけるといいなと思います。

松井:僕は「集団と個人」ですね。例えば自分が組織の一員だとは思っていなくて、独立した個人だと思っていても、内面化した集団のルールに実は動かされていたりする。そういう自分自身のぞっとする部分、無意識な部分をえぐっているドラマだと思っていますので。ひとごとじゃないと感じて、ふと自分を振り返ったり、「あれ、何かを忘れてないか」と迷ったりしていただいてもいいかもしれません。迷ってない人が迷ってもいいと思うんですよね、ドラマを観て。こちらも迷い続けて書いたところもあるので、その迷いに触れて、共有することで何か面白がっていただければと思ってます。

名嘉:私はこれ「強い者と弱い者」の話なんじゃないかなと思っています。会社の中だけじゃなくて、夫婦でも家族でも、強い者と弱い者がいて、それぞれ関係性の中で変わっていくこともあるんですよね。主人公の英理子は強いんですけど、るりや、部下の寺田(加藤清史郎)とか、いろんな関係性の中で変わっていったり、強さと弱さが逆転していったり。強いものがどうあるべきか、何をするべきなのかなど、そういう強さと弱さに注目して観ていただけたらと思います。

■放送情報
ドラマ10『会社員』
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送(全8回)
※毎週木曜24:35〜25:20再放送
※NHK ONEで同時・見逃し配信予定
出演:吉田羊、南沙良、加藤清史郎、小久保寿人、前川泰之、田中直樹、尾美としのり ほか
作:名嘉友美、松井周、あさか友恵、縦谷宗(WDRプロジェクト)
音楽:yuma yamaguchi
制作統括:上田明子、石村将太
演出:保坂慶太、大嶋慧介、西尾友希
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/wdr/

関連記事