『室井慎次』2部作から『踊る』新作映画へ すれ違う室井と青島が最後に見つめた同じ景色

『室井慎次 生き続ける者』描いた男の生き様

「“ソシキ”って何だ?」
「君たちのように、こうやって一緒にいることだよ」
「それは“カゾク”っていうんだ」

 10月10日、フジテレビ系『土曜プレミアム』で映画『室井慎次 生き続ける者』(以下、『生き続ける者』)が放送される。

 本作は、『踊る大捜査線』(以下、『踊る』)シリーズのスピンオフとして、2024年に公開された2部作の後編。かつて警察組織の改革を目指していた室井慎次(柳葉敏郎)は、その夢を果たせないまま警察を退職し、故郷の秋田へ。犯罪被害者遺族の高校生・森貴仁(齋藤潤)と、犯罪加害者の息子・柳町凛久(前山くうが・前山こうが)を里子として迎え、血のつながらない家族として暮らし始める。

 冒頭に挙げたのは、前編『室井慎次 敗れざる者』(以下、『敗れざる者』)で交わされる会話だ。室井と新城賢太郎(筧利夫)が警察組織について話していると、それを聞いていたリクが「組織とは何か」と尋ねる。新城の説明を聞いたリクは、それを「家族」だと捉える。

 警察という巨大な組織の中で、長い年月を過ごしてきた室井。かつて彼は青島俊作(織田裕二)と、現場の刑事が正しいと思うことをできる警察を作ることを約束し、そのために上を目指したが、夢は道半ばで潰えた。

 しかし、もしかすると室井は、警察では実現できなかった理想の組織を、最後に家族という形で作り上げたのではないだろうか。

 『敗れざる者』『生き続ける者』には、物語として気になるところもある。室井の自宅近くで発見された遺体は、かつて湾岸署が担当した事件の関係者のものだった。さらに、室井のもとに身を寄せる杏(福本莉子)が、過去に青島たちを翻弄した犯罪者・日向真奈美(小泉今日子)の娘であることも判明する。こうした出来事の背後には真奈美の影がちらつくものの、彼女がどこまで関与していたのか、その全貌は明らかにならない。また、かつての『踊る』を思わせる賑やかな笑いが、室井の静かな暮らしを描く本筋から浮いて見える瞬間もある。

 それでも、事件そのものではなく「室井慎次という男は、人生の最後に何を見つけたのか」という視点で2部作を振り返ると、一つの筋が見えてくる。

 警察官だった頃の室井は、いつも「現場」を守ろうとしていた。青島をはじめとする現場の刑事が、組織の論理に邪魔されることなく正しい捜査をできるようにする。そのために室井は上へ行き、権威を手に入れようとした。だが、現場を守るために上へ行けば行くほど、室井自身は現場から遠ざかっていったとも言える。

 現場の刑事は、被害者やその家族と顔を合わせ、加害者と向き合い、地域住民の暮らしの中へ入っていく。一方、幹部となった室井のもとへ届くのは、どうしても「被害者」「加害者」「捜査員」といった属性をまとった人間たちの情報だ。

 しかし、警察を辞めた室井は初めて、自ら市井の一人となる。犯罪被害者遺族であるタカと暮らし、犯罪加害者の息子であるリクを育てる。やがて日向真奈美の娘・杏とも向き合い、室井をよそ者扱いする地域の人々とも関わっていく。そこで室井が出会うのは、「被害者遺族」でも「加害者家族」でも「犯罪者の娘」でもない。タカであり、リクであり、杏という一人の人間だ。

 地域の人々も同じだ。最初は感じが悪く見える人にも、その人なりの事情や思いがある。人間は肩書きや属性だけでは分からない。疑い、ぶつかり、ときに間違え、それでも許したり、助けたりしながら同じ場所で生きている。

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