“何でも叶う人生”は本当に幸せなのか 『影を売る女』が描く“影”を手放した先の代償

 けれども、自分という存在の半身をなくしてしまったことで、夕子は誰かと触れあう機会を失いかけた。社会というものの中で大勢の人たちと出会い、語らい、そして愛し合って心を満たすことができなくなりかけた。大切な家族とだって別れざるを得なくなりそうだった。

 それでいいのか? それでもいいのか? お金持ちになりたい、そのためには自分の大切なものと引き換えにしても良いという欲望が、本当に幸福をもたらしてくれるのかということを、夕子という人物の浮き沈みを通して見せようとしている。

 テクニカルなロジックやファッショナブルなビジョンで楽しませることもエンターテインメントには必要だが、ことこの映画に関しては、ひとりの女性が幸福を願ってひとつの禁断ともいえる選択をし、その結果に打ち震える物語を、シンプルなストーリーと愚直な演技によって見せることで、人の生き方において大切なことをとにかくはっきりと伝えようとしている。

 説諭はかけひきではない。助言はクイズではない。ただひたすらに語りかけようとしている。そこに、この映画の美点があると言えそうだ。

 夕子役の長谷川奈央は、幸福の科学製作による実写映画の常連だが、『美しき誘惑-現代の「画皮」-』(2021年)に続く主演となった今回は、どちらかと言えば地味な女性が大金を得てみるみる見栄えが良くなり、言動にも自信がみなぎっていく様子をしっかりと見せてくれる。それだけに、悪魔の企みに気づいてからの転落ぶりが悲惨に見え、やりなおしを選んでからの落ち着いた姿にホッと安心できる。

 そんな夕子を誘う怪しい男を演じたのは青木涼。こちらも、赤羽監督の作品によく出演している役者で、痩身から醸し出される不穏な感じが役にぴったりだ。ゲスト陣も豪華で、芦川よしみに目黒祐樹といった日本の映画やドラマを支えてきた名優たちが、資産家の女性であったり夕子が勤める広告代理店の社長であったりを演じている。

 そして田村亮。父に阪東妻三郎、兄に田村高廣や田村正和を持つ役者一家の出身で、若い頃はイケメン俳優で鳴らしていたが、この作品では温和に見えて夕子に人生の大切さをある意味で諭す老八卦見を演じてみせてくれている。確かな演技者たちの出演が、幸福の科学製作という言葉を選ばずに言うなら一種の宣教作品を、1本の映画にしている。

 宇宙的な存在を相手にした戦いもなければ、地獄や極楽といった異界をめぐる冒険もない。国家や政治といったものとも関わらない、ひとつの広告代理店を舞台にひとりの女性が悩み、迷い選び取った道に喜びながら、やがて真実に気づいて心を入れ替えるというミニマルなストーリーの中に、まっすぐなメッセージを込めた映画という意味で、今までの作品とは違った印象と影響をもたらしそうだ。

■公開情報
『影を売る女』
全国公開中
出演:長谷川奈央、青木涼、田中宏明、芦川よしみ、目黒祐樹、田村亮
監督:赤羽博
原作:大川隆法
製作:幸福の科学出版
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
配給:日活
配給協力:東京テアトル
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