『踊る』シリーズ最大の異色作 『室井慎次 敗れざる者』が“高齢化社会”に問いかけたもの

 10月3日21時からのフジテレビ系『土曜プレミアム』で、映画『室井慎次 敗れざる者』(以下、『敗れざる者』)が放送される。

 本作は『踊る大捜査線』(以下、『踊る』)シリーズのスピンオフ映画で、2024年に『敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』(以下、『生き続ける者』)の2部作として劇場公開された。

 警視庁のキャリアだった室井慎次(柳葉敏郎)は、所轄の刑事・青島俊作(織田裕二)との約束を果たすため警視庁長官官房組織改革審議委員会の委員長を5年間務めた。しかし組織を変えることはできずに、委員会は解散。その後、室井は定年前に警察を退職し秋田の山奥の民家に移住。

 そして、里親として高校生のタカこと森貴仁(齋藤潤)と小学生のリクこと柳町凛久(前山くうが、前山こうが)を引き取り、3人で穏やかに暮らしていた。

 しかしある日、室井家の目の前の土地から、腐乱死体と洋梨が発見される。死体は室井が過去に担当した「レインボーブリッジ事件」の犯人グループのメンバーだった瀬川吉雄(三宅弘城)だと判明。出所した犯人グループが特殊詐欺を繰り返していることを知らされた室井は、事件の捜査に協力することを要請される。

 そして同じ頃、室井の元に1人の少女が訪ねてくる。

 彼女の名前は日向杏(福本莉子)。かつて湾岸署を騒然とさせた猟奇殺人犯・日向真奈美(小泉今日子)が獄中で出産した娘だった。

 2012年に劇場公開された映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から12年ぶりの『踊る』シリーズの映画となった本作は、無職になった室井が秋田で第二の人生を過ごす姿を描いた物語となっており、秋田の大自然をバックに室井が子どもたちと日々を過ごす姿は、まるで倉本聰脚本の連続ドラマ『北の国から』(フジテレビ系)のようである。

 もちろん『踊る』シリーズならではの犯罪が絡んだ展開も用意されているのだが、物語の軸足は室井家の日常に置かれている。

 本作では、テレビドラマも含めた、『踊る』シリーズの過去の映像が回想シーンで繰り返し流れ、物語も過去作で対峙した犯人との対決が描かれる。

 また、室井が里親として引き取ったガクは母親が犯人に殺害された犯罪被害者で、逆にリクは父親が犯罪者。そこに日向真奈美の娘・杏が室井家に加わり、犯罪被害者と加害者の子どもたちに室井がどのように向き合っていくのか、というのが大きなテーマとなっている。

 犯罪被害者の心のケアというテーマは『踊る』のテレビドラマ第1話の時点で登場している。父親が殺された柏木雪乃(水野美紀)が、犯行現場を目撃して口が利けなくなって入院した際、青島は親身に寄り添おうとする。それに対して事件解決しか頭になく、彼女に対して無神経な対応しかできない室井ら警視庁の刑事たち、という対比が際立っていた。しかし、晩年の室井が犯罪に巻き込まれた子どもたちの里親として暮らしている姿を観ると、この第1話での態度がずっと後悔の念として残っていたのではないかと考えてしまう。

 これまで『踊る』シリーズを観てきたファンにとって感慨深くなる場面が『敗れざる者』には何度も登場する。

 その意味で『踊る』の続編であることにとても自覚的な映画だが、同時に本作は『踊る』シリーズ最大の異色作とも言える。

 それは、室井の姿を通して“老い“を描いたからだ。

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