『ハート・オブ・ビースト』はひと粒で4度おいしい ブラピ映画としても犬映画としても見事

 デヴィッド・エアー監督は器用で、ブラピはカッコよく、犬はかわいい。そんなわけで『ハート・オブ・ビースト』(2026年)である。

 過酷な戦場を生き延びた元軍人のジェームズ(ブラッド・ピット)と、彼と戦場を駆けた軍用犬のオーディン。ペットとご主人ではなく、かけがえのない戦友同士として、1人と1匹は静かに暮らしていた。その日もアラスカでアメリカン極まりないキャンプを楽しんでいたが、帰りの飛行機を操縦中にジェームズが心臓発作を起こす。飛行機は墜落するが、間一髪で命は拾った。しかし、そこは残酷なほど雄大なアラスカのド真ん中。それでもジェームズは歩き出す。「家に帰ろう」こうしてブラピと犬の命を懸けた旅が始まった。

 この映画はひと粒で4度おいしい。というのも、4つのジャンルが入り乱れているからだ。

 まず、本作は間違いなく“ファイト一発映画”の系譜である。これは私がそう呼んでいるジャンルなのだが、『ゼロ・グラビティ』(2013年)が生み出したジャンルである。つまり、「主役は1~2人で」「雄大で絶体絶命がすぎる状況に置かれて」「それでもファイト一発、技術と知識と気合いで生還を目指す」「その旅路で人生に関する何かを描く」というものだ。近年だと600メートルの電波塔のうえで宙づりになる『FALL/フォール』(2022年)なども同ジャンルに連なる。

 本作は、このジャンルの定石を丁寧に踏んでいく。楽し気な序盤、雄大で美しいアラスカの大自然、しかし人生の暗い部分を見せつつ、問題が発生。ブラピと犬は互いの能力を駆使して危機に立ち向かう。そしてクライマックス、人生にまつわる「何か」が示される。極めて基本に忠実なファイト一発映画だ。

 同時に、本作は間違いなくデヴィッド・エアー映画である。エアー監督といえば警察映画の傑作『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)や、戦車映画『フューリー』(2014年)などで知られる人物。もともとは海軍で、潜水艦乗りから脚本家・映画監督に転職した異色のキャリアを持つ。主に治安の悪い映画で真価を発揮する人物だが、今回は犬とブラピと大自然のみの、ストイックな新境地にチャレンジ。先にも書いたファイト一発映画の基本を忠実にこなす意外な器用さを見せる。その一方で持ち味のタフでワイルド、サバイバルやミリタリーへの拘りも健在。劇中に登場する数々のサバイバルテクニックについて、あえて詳しい説明を入れず、しかし「何か専門的なことをしている」とは伝わる絶妙な見せ方をしてくれている。ちなみにリアルな人体損壊描写でも知られる人物だが、本作では開放骨折&痛すぎる応急処置で、その手腕も発揮。見事である。

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