美容整形のリアルに迫る『ダウンタイム』 松岡茉優演じる医師の変化が問う“他者への眼差し”
儒教には、このような教えがある。自分の身体や髪、皮膚は、両親から授かった大切なものなので、傷つけないように大切にするべきで、それが親孝行の第一歩なのだと。儒教文化が倫理観のベースになっているところがある日本では、そうした観念が支配的なのか、整形に対してネガティブな感情を持たれることが比較的多いように感じられる。
もちろん、手術自体や術後にトラブルが起きる可能性など、あらゆるリスクが存在するのは事実。だが一方で、大人が自分の責任で、そうしたリスクを覚悟しながら臨む選択について、他者が文句をつけるというのは、どうなのか。そうなると個人主義の価値観からは逸脱しているといえよう。もちろん、整形に依存する人物が、政治家などの公人であるなら、資質を問われる材料になるのだろうが。
安達祐実が演じる整形依存の患者が象徴するように、容姿に病的にこだわってしまうことで過剰な施術を望む場合もある。そうしたケースではたしかに周囲のケアが必要になる。しかし、患者がそのように考えてしまう原因として、職業的な環境だったり、過去に誰かから容姿を否定された経験など、さまざまな要因が背景にあることを、本シリーズは示唆している。
その種の患者を“かわいそうな被害者”にもしすぎないところが、本シリーズの脚本の丁寧なところだ。社会の犠牲者だから整形してはいけないとするわけでもなく、本人が望んでいるなら無条件に整形すればいいと言うわけでもない。事情を理解しながら、最終的な選択の主体性も残すという、絶妙なバランスを取っているのである。
文もまた、単純に整形賛成派へ転向するわけではない。それよりも彼女には、自分の価値観を基準にして他人の選択を判断することが傲慢であると気づかされていくことに重点が置かれている。そしてそうした思考は、マイノリティに対する社会の無理解ともつながっている。その意味で、文の態度は日本人のマジョリティにおける、美容整形についての典型的な反応の一つを象徴しているといえる。
この結論にたどり着くと、作品の柱になっている思想は、じつはかなりシンプルだということに気づく。それは、“人に思いやりを持つこと”、“同じ目線に立って、その人の選択を尊重すること”という、美容整形以外の事柄にも共通する、基本的なコミュニケーションの心構えなのだ。
「そんなことは誰でも分かっている」と考える人は多いだろう。だが、これがひとたび美容整形のような分野に及ぶと、途端に正常な判断力が働かなくなったりする。こうした構図は美容整形に限らず、移民や外交、文化の衝突や性別間の軋轢など、さまざまな局面でいえる。人は、よく知らないものを敵視しがちであり、そうした見方を変えたくないために、意識的にものを知ろうとせず、必要な情報を遠ざけてしまうのだ。
本シリーズ『ダウンタイム』は、整形という題材を使いながら、他人を見る態度そのものを、文の変化を通して視聴者に問い直している。その上で本シリーズは、安易に整形をする人を嘲笑しないことはもちろん、その射程を広げ、相手がどんな特徴を持っていようと、理解しようとする姿勢を崩さないことが重要だと語っていると考えられる。もちろん、当初の文がそうだったように、他者の判断を偏見から否定する者の考えまでをも受け入れる必要はないだろう。
こうした姿勢が求められる日本の現在の社会において、本シリーズのような作品が作られ、広く見られることは重要だと思えるのである。『ダウンタイム』は、人の外側の姿を変える技術を描きながら、その中身をこそ変えようとするドラマなのである。
■配信情報
Netflixシリーズ『ダウンタイム』
Netflixにて独占配信中
出演:松岡茉優、仲里依紗、間宮祥太朗、田中みな実、萩原利久、長井短、渡辺大知、中川家礼二、シシド・カフカ、城田優、増子直純、武田創世、泉里香、田村健太郎、篠井英介、天野はな、景井ひな、研ナオコ、野呂佳代、古川凛、安達祐実、風間俊介、Kōki,、永作博美、渡部篤郎
監督:Yuki Saito
脚本:池上純哉
プロデューサー:三宅はるえ、茂木克仁
企画プロデューサー:工藤伸一
制作プロダクション:K2 Pictures
企画・製作:Netflix