『交渉人 真下正義』には“当時の若者像”が色濃く反映 “オタク”が抱いていた社会不安
『踊る大捜査線』(以下、『踊る』)シリーズの最新映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』の劇場公開を記念して、フジテレビの『土曜プレミアム』では『踊る』シリーズ関連の映画を放送している。
9月26日に放送されるのは『交渉人 真下正義』(以下、『真下正義』)。本作は、「THE ODORU LEGEND CONTINUES」という『踊る』の世界を舞台にしたスピンオフ映画の第1弾として2005年に劇場公開された。監督は『踊る』の劇場映画と同じ本広克行が担当している。
2004年のクリスマスイヴ。警視庁のホームページが「弾丸ライナー」と名乗る犯罪者にハッキングされる。
弾丸ライナーは、テレビで活躍が報じられた警視庁刑事部交渉課準備室に所属する交渉人(ネゴシエーター)の真下正義(ユースケ・サンタマリア)に「真下警視、出ておいで。一緒に地下鉄走らせようよ」というメッセージを残す。その後、東京の各所に爆弾を仕掛けると同時に、地下鉄の最新鋭実験車両クモE4-600(通称・クモ)を乗っ取り、東京の地下鉄路線で暴走させる。
クモは線路の幅が異なる路線も自由に行き来できるフリーゲージトレイン(GCT)で、自走式バッテリーを搭載しているため、電源が切られた区間でも走り続けることができる。そして、犯人が外から操作する無人車両であり爆弾を積んでいる可能性があるため「動く爆弾」のような存在となっている。
何より恐ろしいのは神出鬼没なことで、東京の地下鉄を管理する総合指令室の表示盤から突然消えたかと思うと、別の場所に姿を現す。
犯人との交渉窓口に指名された真下は、犯罪をゲームのように楽しむ「弾丸ライナー」に対して交渉術で戦いを挑む。
弾丸ライナーは真下に対して異常な敵対心を燃やし挑発してくるのだが、一方で古い映画が好きらしく、事件の謎を解くヒントとして『ジャガーノート』、『オデッサ・ファイル』、『愛と哀しみのボレロ』といった洋画の名前を挙げる。
それらの映画の内容から犯人の目的を真下が読み解いていくという展開が映画では続くのだが、その様子は、まるで犯罪をネタにして、映画オタクが推理ゲームを楽しんでいるかのようだ。
弾丸ライナーが犯罪をゲームのように楽しんでおり、真下もまた交渉をゲームのように楽しんでいる。犯人と真下が似た者同士であることに、観客はすぐに気付かされる。
『踊る』のキャラクターは若い世代になるほど、アニメや漫画に偏見がなくコンピューターに詳しいオタク気質の刑事が増えていく。その筆頭が主人公の青島俊作(織田裕二)と真下で、オタク的な若者と職人気質のおじさんの世代による価値観の違いが事件に対するアプローチの違いとなって描かれていたのが初期の『踊る』の面白さだった。
だが、シリーズが進む中で青島はヒーロー性が強まり、オタク的な幼児性は次第に薄まっていった。一方の真下は、お調子者で子どもっぽさを抱えたオタクのまま年齢を重ねていったところがある。その意味で真下は成熟できないオタクの代表のような存在だった。