『付き合ってあげてもいいかな』が映しだす恋愛の甘さと痛み 「モノローグ」を使わない関係性描写のリアリティ

 たみふるによるガールズラブコミックスをドラマ化した『付き合ってあげてもいいかな』(MBS/以下、『付きかな』)が現在放送中だ。恋愛ドラマが描きがちな「付き合うまで」ではなく、「付き合ってから」に焦点を当てた本作は、ただロマンティックなだけではない“痛み”をはらんだ恋愛のすがたを映しだす。

 プロデューサーには『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』(MBS)や『コールミー・バイ・ノーネーム』(MBS)などのGL作品にくわえ、『女の子が抱いちゃダメですか?』(MBS)といった非規範的な異性愛作品にも携わってきた上浦侑奈が名を連ねる。監督はFOD配信作品ながらも話題となった『コントラスト』脚本の山田佳奈と、アイドルを志す同性カップルを描いた短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』が高い評価を獲得した洪先恵(ホン・ソネ)。脚本は『コールミー・バイ・ノーネーム』、『女の子が抱いちゃダメですか?』の松ケ迫美貴が手がけるなど、日本のクィア表象を引っ張ってきた制作陣によって作られていることにも注目したい。

 本作を観るとまず気づくのは、「モノローグ」が徹底的に取り除かれているということである。漫画や小説といった媒体は地の文をつかって人物の内的独白=「モノローグ」をテキストとして書き表すことができる媒体である。こと小説においてはその心の声をいかに書くかが「意識の流れ」として技法化されていたりもするが、映像媒体は「モノローグ」を使わずとも内面を表現できる。視線や表情のちょっとした揺らぎや言い淀みなど、あえて言語化せずとも視聴者に“読ませる”ことができるのは、映像表象の特徴であり強みでもある。

 しかし昨今の(とくにBL)ドラマにおいては「モノローグ」を多用する作品が目立つ。『付きかな』もそうであるように、現状日本の同性愛ドラマの大半は漫画や小説のアダプテーションである。漫画や小説で表現された「モノローグ」が実写映像になったときにも引き継がれ、過剰に“説明的”な印象をもたらしていることは、その情緒を損なうだけでなく、感情を語る細部をフレームに収められる実写映像という表現の可能性を信じきれていないことを感じさせる。あるいはそれは、非言語的な感情表現を読み解く視聴者の能力を信じていないことの証左なのかもしれない。

 『付きかな』を観るとき、わたしたちは、「モノローグ」の除去された発話と映しだされた身体から冴子(鞘師里保)とみわ(小西桜子)の内心を読み解くしかない。それはもちろん実生活においても同じで、思ったことをすべて口にするわけではないわたしたちは、知りえない相手の内面を「読む」ことでしか関係は持続させられない。目の前にいるあなたはいま何を考えているのだろうか? 画面に映る冴子とみわはお互いをどう思っているのだろうか? 想像することでしか答えられないあまりに普遍的な問いを『付きかな』はつねに立てている。

 第2話終盤でセックスを中断した冴子は、「みわってさ、そもそも性欲あんの?」「性欲ないんだったらまじで強要できないじゃん」と言う。なにかとガサツそうな冴子だがしっかりと性的同意はとるのだ。現在の映像表象において性的同意をいかに描写するかはひとつのイシューであろう。漫画や小説以上に生身の人間の肉体を通した言動は、生々しくときに暴力的にすら映る。性的同意をとることが重要である一方で、しかしすべての同意を言語化することだけがフィクションの質を高めるわけではない。

 現在放送中のBLドラマ『陽キャ集団にいる芹沢は、俺の前だと様子がおかしい』(読売テレビ)は、性的同意の表現についてひとつの答えを出している。第5話の終わり、「キスしていい?」と言語コミュニケーションを志向する主人公・鈴木(小泉光咲)と、「もうちょっと自然に」ノンバーバルで合意をとりたい芹沢(四坂亮翔)とで意見がすれ違う場面がある。最終的には非言語的な合意のうえでキスをするのだが、これは性的同意は明文化された“台詞”でなくとも表現できることを示している。

 これに対して『付きかな』は、「〜〜していい?」のような紋切り型のフレーズではないものの、言語コミュニケーションで同意をとろうとする心意気が見てとれる。それは以前冴子がみわをホテルに誘った際に、お互いがお互いに気を遣いすぎたがゆえに抜け落ちた本心での会話が、2人の仲を微妙にしてしまったという経験ゆえだろう。気を遣って相手の心情を「読む」ことだけが正解ではなく、むしろ相手の内面は知りえないものと割りきってしまうこと——わざわざことばにして尋ねつづけることもまた大切なのである。

 「モノローグ」のない『付きかな』は、その感情を読む愉しさがある一方で、他者の内面を読みえないものとして引き受けたうえでの言語コミュニケーションも描きつづける。わからなさの余韻を残しつつも、わからないからこそ尋ねつづける、そんな恋愛の甘さと痛みを描いている。

■放送情報
ドラマ特区『付き合ってあげてもいいかな』
MBSにて、毎週木曜24:59~放送
テレビ神奈川にて、毎週木曜23:30~放送
チバテレにて、毎週金曜23:00~放送
テレ玉にて、毎週水曜24:30~放送
とちテレにて、毎週木曜23:30~放送
群馬テレビにて、毎週木曜24:00~放送
GagaOOLalaにて全世界配信(日本、韓国を除く)
TVerにて見逃し配信1週間あり
出演:鞘師里保、小西桜子、山下永玖、伊島空、葵揚、黒崎レイナ、橋本稜、山谷花純、紺野彩夏
原作:たみふる『付き合ってあげてもいいかな』(小学館『裏少年サンデーコミックス』刊)
監督:山田佳奈(1~3・6・8話)、洪先恵(4・5・7話)
脚本:松ケ迫美貴
音楽:原田智英
企画・プロデュース:上浦侑奈
プロデューサー:神殿璃沙、伴健治
インティマシーコーディネーター:西山ももこ
LGBTQ監修:五十嵐ゆり
制作:K2pictures   さざなみ
製作著作:「付き合ってあげてもいいかな」製作委員会・MBS
©︎「付き合ってあげてもいいかな」製作委員会・MBS ©︎たみふる/小学館
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