『風、薫る』“シマケン”佐野晶哉が三角関係の勝者に りん&直美が手にしたそれぞれの幸せ
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第101話では、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)が手にした「それぞれの幸せ」が描かれた。
りんと直美がかつて働いていた帝都医大病院の内科教授・木村(前野朋哉)が、恵風看護婦会の事務所を訪ねてくる。在宅での看護を希望する患者がいるため、りんたちに受け持ってほしいとのこと。患者は宮川佳枝(相田翔子)という40代の女性で、関節ロイマチス、今でいうリウマチを患っており、長期的な看護が必要だという。
佳枝が男爵家の夫人と聞き、直美は担当をりんに指名する。直美が本来、この看護婦会でやりたかったのは、生活困窮者に向けた無償看護だ。しかし、多くの人に無償で看護を届けるためには、裕福な患者からも依頼を受け、活動資金を調達する必要があった。ただ、裕福な家ともなれば、見ず知らずの看護婦を家に入れることには慎重になる。そこで、直美は元家老の娘であるりんを看板看護婦として前面に押し出し、上流階級の人々から信頼を得ようと考えたのだ。これまでも、したたかに世の中を渡ってきた直美の才覚が、いまや看護婦会の経営にもうまく生かされているように感じる。
看護婦として重要な仕事を任される一方、りんは弁当を差し入れするなどして、小説の執筆に専念する島田(佐野晶哉)を支えていた。島田の告白と決意表明を受け、「待ちます」と告げたりん。ようやく思いが通じ合った2人は、目を合わせて恥ずかしそうに微笑むだけだが、幸せオーラが滲み出ている。そんな矢先、島田のもとに槇村(林裕太)が訪ねてきた。小説を書くのを辞め、出版社の社員として生きることを決めたという。子どもが生まれて幸せそうな兄夫婦の姿を見て、自分だけがこのまま取り残されていくような恐怖を感じ、夢を追う生き方から現実的な道へと舵を切ったのだ。
槇村の「お前は変わらないな」という言葉に顔を曇らせる島田。槇村としては、自分の信念を貫き、夢を追い続ける友人への羨望を込めた言葉だったのだろう。しかし、島田からしてみれば、「小説家になる夢」と「自分の家庭を築く幸せ」を天秤にかけ、潔く後者を選んだ槇村がどこか眩しく映ったのではないだろうか。どちらかを選べない、どちらも手放せない自分を不甲斐なく思ったのかもしれない。
そんな島田の背中を押したのは、虎太郎(小林虎之介)だった。初めて対面したときから、島田を恋のライバルとして認識していた虎太郎。だが今回、団子屋で楽しそうに過ごすりんと島田の姿を見て、自らの敗北を悟ったようだ。虎太郎は安定した仕事に就き、なおかつ製薬会社勤務なので、看護婦として働くりんの仕事にも理解があり、結婚相手として申し分ない条件が揃っているように見える。虎太郎自身にも、りんを幸せにできるのは自分しかいないという自負があったのだろう。しかし、りんが望むのは経済的な豊かさでも、安定した暮らしでもない。島田の隣で幸せそうに笑う彼女の姿を通して、虎太郎はようやくそのことに気づいたのではないだろうか。
りんが去った後、島田に虎太郎が声をかけ、そのまま一緒に酒を飲むことになった2人。ほどよく酒が回ったところで、虎太郎は胸の内に秘めていたりんへの思いを語り始める。りんと虎太郎は幼なじみだが、身分差があった。決して裕福とは言えない家に生まれた虎太郎は、島田のように夢を追う余裕などなかった。東京に出てきてからは、「自分には学がない」と自覚しながらも、与えられた仕事に必死に食らいつき、いつか堂々とりんの隣に立てるような人間になろうとしてきたのだ。
それなのに、りんの心を射止めたのは、自分とは対照的に夢を追い続ける島田なのだから、きっと悔しくてたまらないはず。けれど、虎太郎はいつだって、自分の思いよりも、りんの気持ちを尊重する男だ。“我欲の塊”だと自分を卑下する島田に、「じゃあ、努力しろ。血反吐、吐くまで努力しろ!」と喝を入れた虎太郎。夢も、りんとの幸せも手放せないのであれば、両方手にできるように努力すればいいのである。虎太郎だからこそできる、漢気あふれる激励に、島田も強く背中を押されたようだ。小説を書き上げ、ついに連載を勝ち取った島田。りんの喜ぶ顔が、今から眼に浮かぶ。
かたや、直美はりんの家を出て、小川(甲斐翔真)と新婚生活をスタートさせていた。小川は軍人なので自活能力が高く、炊事洗濯もお手のもの。そのため、もともと料理が得意でなく、仕事で帰りが遅くなる直美に代わって台所に立つ。「軍人だからって台所に立ってくれるのは吾郎さんくらいか」と直美が言い、小川が少し誇らしげに笑う。りんも直美も、世間が思い描く“普通”の生き方からは、少しはみ出しているのかもしれない。それでも、2人は今、確かに幸せなのだ。心配なのは、少しずつ戦争の音が近づいていること。このささやかな幸せが、どうか奪われることなく続いてほしいと願わずにはいられない。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK