ゾンビ映画としての『キングダム 魂の決戦』 万極の“怨み”vs.信の“夢”を読み解く

 では、そんな「伝統」のなかで、『魂の決戦』でのゾンビや壁の描写はいかなる意味を持つものだったのだろうか。

「『魂の決戦』で万極軍を動かしているのは過去の大虐殺の怨み、つまりヘイトです。原作では『怨嗟の渦』と呼ばれています。万極は『貴様らがしたことと、同じことをやっているまでだ。長平で投降した兵40万を貴様らは生き埋めにした』と語る。これに対して主人公の信は、『国境があるから国々で戦い続ける』のであり、天下統一を目指す自分は『この戦争を終わらせるために戦っている』のだと反論します。この対決は意味深い。なぜならここには、虐殺による被害の記憶が国威発揚のモチベーションになる“犠牲者意識ナショナリズム”vs. 国境をなくすことで平和をもたらせると考える“グローバリズム”の対立の構図を読み込むことができるからです」

 しかし他方で、今作で描かれる秦国の姿には一種の“矛盾”を読み込むこともできると西山は語る。

「天下統一による平和という“グローバリズム”を目指す秦国ですが、他方、戦いのうえとはいえ、函谷関に壁を築き、籠城することで他所者の侵入を阻もうとするわけですよね。アメリカとメキシコの国境に壁を築くと宣言したトランプ大統領を見ればわかりやすいですが、この姿勢は反グローバリズムを表現するものだと言える。アメリカは『自由の国』から『壁の国』に変貌したわけです。『キングダム』の要素を意地悪に切り取れば、秦国はたんに矛盾した態度をとっているのだ、と言うこともできます。ただ、もうすこし踏み込んで、秦国は実際の現代世界で行き当たりばったりな政策を行う超大国たちの姿を表現しているのだ、と考えることもできると思います。いずれにせよ、これまで見てきたとおり、ゾンビは時代と人間を映す“鏡”であり続けてきました。『魂の決戦』は、いまの戦争の時代の論理をなんらかの形で反映したものなのは間違いない。ただそれをどう受け止めるかは我々の手に委ねられているのかと」

 もちろん、ある映画が戦争の時代の論理を反映しているからといって、それは戦争を奨励することとは違う。西山は最後にこう付け加える。

「『キングダム』シリーズは、純粋に映画として抜群に面白いものです。この夢のない時代に、主人公の信が『天下の大将軍になる』という大きな夢をまっすぐに追いかける姿がまぶしい。ロジェ・カイヨワは『遊びと人間』という著作のなかで、遊びを競争/偶然/模倣/眩暈の4つに分類しました。このなかで“競争”というのはスポーツなど勝ち負けを競うものです。古代から近代のオリンピックがそうであったように、競争の遊びは実際の戦争を平和的に代替するものでもありました。『キングダム』シリーズは春秋戦国時代を描く点でもダイレクトに戦争ものですが、決して戦争を奨励しているわけではない。むしろみんなで『キングダム』を楽しく観ることで、戦うという欲望を代償的に消化し、我々は平和に暮らそうよと思います」

■公開情報
『キングダム 魂の決戦』
全国公開中
出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、岡山天音、志尊淳、神尾楓珠、結木滉星、三吉彩花、三山凌輝、山下美月、蒔田彩珠、山田裕貴、坂口憲二、豊川悦司、髙嶋政宏、要潤、加藤雅也、高橋光臣、平山祐介、一ノ瀬ワタル、佐久間由衣、勝矢、坂東彌十郎、橋本さとし、笹野高史、谷田歩、中村蒼、田中圭、斎藤工、玉木宏、佐藤浩市、小栗旬
原作:原泰久『キングダム』(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、原泰久
音楽:やまだ豊
主題歌:米津玄師「夜鷹」(Sony Music Labels Inc.)
配給:東宝
©︎原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会
公式サイト:https://kingdom-the-movie.jp
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