『風、薫る』“藤次”中村倫也の本格登場で急展開 “感染と差別”を描く社会派ドラマに
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第93話では、赤痢の感染拡大を食い止めるためにりん(見上愛)と直美(上坂樹里)が奮闘する。
避病院についてからというもの、手始めに換気と清掃、消毒、そして患者の重症度の確認、看護体制の整備と働き詰めだったりんを救ったのは東京に帰ろうとしていた直美だった。駅で赤痢が出たとの噂を聞いて、りんがいるかも、と駆けつけてきたらしい。たとえりんがいなくとも現場に来ただろうという直美は、りんと同じくしっかりとバーンズ(エマ・ハワード)の教えを心に留め、実践している。
赤痢の原因は、少量でも大きな感染力を示す赤痢菌。急な高熱や激しい腹痛が特徴で、感染経路はコレラと同じく、汚染された水や食べ物を通じた経口感染だ。そのため、患者が触れたものには触れないことが感染拡大を防ぐために最も大切である。りんたちがまず消毒をしたのもこのような理由がある。また、黒川(平埜生成)は避病院についてから、患者を診察するかたわら、ひたすら穴を掘っていたが、これは、患者の排泄物に触らないようにするための措置である。さらに、激しい腹痛と下痢で脱水症状になっている患者たちは、適切な治療とともに水分と適度な栄養がないと回復もしない。りんたちはナースとしての仕事をしながら食事の用意もしなければならない。医療といえば症状を和らげたり、根本治療をするための薬を投与するようなイメージを持ってしまうが、これも立派な感染拡大を防ぐ処理。黒川の「これが医療」という言葉が重く響く。
一般的に赤痢菌による激しい症状が現れるのは1日〜5日程度だが、感染が広がっているうちは、こうして休まず働いていても良くなっていく患者よりも避病院へ運び込まれてくる人のほうが多い。良くならない病状に苛立ち、東京から来た藤次(中村倫也)が赤痢を持ち込んだのだと差別に走る人もいた。
先ほども触れたように、赤痢は感染者の触れたものに触ることなどから広がるもので、その人が菌を振りまいているのではないし、ましてやその人が体内で菌を錬成しているわけでもない。日本でもいまだに赤痢菌による感染は確認されており、そのほとんどは東南アジアなどで生水や生の魚介類を摂取してしまうことが原因とされている。だが、2000年代前後には井戸水を飲むことで感染してしまった例も確認されている(※)。なんにせよ、最初の感染は意図しないものだ。正しい知識を知ることは、差別をなくすための第一歩になる。本作は感染症の描写を通してそのようなことも伝えたいのではないだろうか。
直美はもちろん差別をよく思わず、藤次にひどい言葉を投げた患者を怒鳴りつけた。しかしながらこれほどまでに大規模な感染症の看護を行う現場が初めてだった直美は、りんとふたりきりになったとき、ふとしたときに襲ってくる恐怖を吐露。りんも直美は来るまでは同じ思いを抱いていたため、ほっとしたような顔を浮かべた。受け止めてくれる人がいるだけでまた頑張ることができる。ふたりは励ましあってまた患者へ向き合っていった。
そのうち、看病婦も慣れてきて、避病院には適切な医療体制が整ってきた。人の助けによって水を飲み、食事をし、少しずつ回復していく人たち。そんな姿にりんは感動する。りんがナースを志したのは、父をコレラでなくした経験があったからだ。そのとき悔やんだ気持ちがあったから、その先の未来で、自分と仲間たちの力によって多くの人を救うことができている。りんの目にはその達成感と「これから先も、こうできたら」という未来への希望が見てとれた。
直美が村の人たちに食事を作る手伝いをお願いしたことで、さらに患者の回復を見守る体制も整いそうだ。りんと直美の戦いはもう一踏ん張り、といったところだろうか。
参照
※ https://idsc.niid.go.jp/iasr/20/229/dj2291.html
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK