『黒牢城』は徹底してアナーキーな映画だ 黒沢清監督最大ヒットとなった成功の理由を分析

 6月19日に公開された黒沢清監督の映画『黒牢城』が、注目すべきロングヒットを記録している。7月10日からは一部劇場でモノクロ版の上映が始まり、こちらも好評を博している(実際、素晴らしかった!)など、間もなく累計興収10億円を突破する勢いだ。この時点ですでに黒沢監督の映画としては、最大のヒットとなることが決定している本作。その成功の理由は、どこにあったのか。それは、さまざまな客層を呼び込む「入口」の多さにあったのではないだろうか。

 そもそも黒沢監督は、映画好きのあいだでは常にその動向が注目されている監督のひとりであり、『急に具合が悪くなる』の濱口竜介監督をはじめ、黒沢監督が教鞭をとる東京芸術大学大学院でその薫陶を受けた監督も数多い。その黒沢監督が初めて本格的な「時代劇映画」を撮ることは、かなり早い段階から注目を集めていたし、それが今年5月に行われた第79回カンヌ国際映画祭のカンヌ・プレミア部門に出品され、現地で高評価を受けたことも、ファンの本作に対する期待値を高めていた。しかしながら、それ以上に本作が注目を集めていたのは、本作が『氷菓』などで知られるミステリ作家・米澤穂信の直木賞受賞作の映画化であることだろう。直木賞を受賞した歴史・時代小説の映画化と言えば、今年2月に公開された『木挽町のあだ討ち』がある。こちらが現時点で興収9.5億円というロングヒットを記録していることも、本作に対する追い風となったのかもしれない。

 とはいえ、映画の「顔」は、やはり役者である。その意味でも本作は、抜群の注目度を誇っていた。主演の本木雅弘(『麒麟がくる』)をはじめ、菅田将暉(『鎌倉殿の13人』『豊臣兄弟!』)、吉高由里子(『光る君へ』)というメインの3人はもちろん、青木崇高、柄本佑、さらにはユースケ・サンタマリア、吉原光夫など、近年のNHK大河ドラマ(もちろん、いずれも時代劇だ)における好演が記憶に新しい役者たちが、ズラリ顔を揃えているのだ。さらには、ドラマ『大奥』(フジテレビ系)で「松平定信」を演じるなど、時代劇作品にも積極的に出演している宮舘涼太(Snow Man)、黒沢監督の映画『アカルイミライ』が、自身初の映画主演作であるオダギリジョーなど、そのキャスティングの豪華さは、まさしく「大河ドラマ並み」と言えるだろう。

 そう、大河ドラマ――この「入口」が、本作においては、実はかなり大きかったのではないだろうか。現在放送中の大河ドラマ『豊臣兄弟!』の第23回「さらば半兵衛」で、トータス松本演じる荒木村重が、小栗旬演じる織田信長に反旗を翻し、その説得のため、倉悠貴演じる黒田官兵衛が、織田方の使者として村重の居城・有岡城に向かうも身柄を拘束されてしまう。果たして、官兵衛の運命やいかに――という絶好のタイミングで、まさしく荒木村重の「籠城戦」を描いた本作『黒牢城』が公開されることになるとは、関係者一同、誰も想定してなかったに違いない。しかしそれが、何よりの「呼び水」になったのではないか。

 ことほどさように、黒沢作品としては異例なほど、多くの「入口」から観客を迎え入れることになった本作『黒牢城』。しかしながら、そのような「入口」の多さに対して、その「出口」が必ずしもひとつではないところが、本作の一筋縄ではいかないところであり、最も面白いところなのかもしれない。篠山城、姫路城、彦根城、伊賀上野城、明石城など、実際の史跡を組み合わせながら構築された「有岡城」や、官兵衛が幽閉される「広大な地下牢」の大掛かりなセットなど、これまでの黒沢作品とは一線を画するスケール感を持った本作は、黒沢ファンが驚くような、堂々たる「時代劇映画」となっていたのだ。

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