『落下の王国』リバイバル上映はなぜ異例の大ヒットとなったのか ソフト化を機に振り返る
なかでも壮観なのは、海を泳ぐ象を映し出した、夢としか思えないようなシークエンスである。これもじつは、インド領のハブロック島に実在する、ラジャンという名の“海を泳ぐ象”を撮った本物の映像なのだ。この地域には、かつて伐採した木材を運ぶため、海を泳ぐ訓練を受けた象たちがいたのだという。しかし、環境保護の観点からその仕事がなくなったことで、ラジャンは世界で最後の“海を泳ぐ象”となっていた。こうした、“嘘のような本物の光景”が、われわれ鑑賞者の現実の認識を揺るがせていく。
ロイの精神を反映した物語は、やがて残虐で悲観的なものになってゆく。ロイの物語は、単なる戦略的な嘘ではなく、そこに彼自身の絶望が反映されていることに気付かされるのだ。その世界に干渉し、“生きる力”を物語に加えようとするのが、アレクサンドリアの純粋な精神である。物語という、一つの綱を握ったロイとアレクサンドリアは、ここで必死の綱引きを始める。それはまさに、エロス(生)とタナトス(死)の葛藤だといえる。
そうして映画は、あの印象深いラストシークエンスに突入する。それは、往年の映画作品の数々におけるスタントシーンである。クエンティン・タランティーノ監督が『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)でおこなったように、体を張ってアクションシーンを成立させるスタントパーソンへの尊敬と映画への愛が、ここに込められたものだと、多くの観客が信じていることだろう。
今回発売される4Kデジタルリマスター版UHD、Blu-rayでは、吹替版で追補収録がおこなわれたほか、さまざまな特典映像が用意されている。そのなかでも、2025年の日本での上映において、ターセム監督がファンからのオンラインQ&Aに参加した映像は貴重だ。なんと監督は、そこでファンからの「最後の映像にはスタントパーソンへの尊敬があったのでは」という指摘を否定し、「期待を裏切るようで申し訳ありませんが……」と、その演出の本来の意図を語ってくれるのだ。
ここでは、その“真相”を書くことはしないが、このようなさまざまな監督の言葉によって本編の内容が整理されることで、本作がまた新たな輝きを放つだろうことは確実である。映画の起源を遡れば、物語を伝承する“語り部”に辿り着くこと。そして“物語”が、話す人、聞く人の心を救うこと。この感動的な事実が強烈に示唆され、普遍的なテーマへと回帰していくのである。
われわれもまた、多くの場合“物語”を体験することを求めて映画館に足を運び、部屋で何度も同じ映画を観る。その理由は、ただ食べて、眠り、生活するだけでなく、生きること自体に、われわれが意義や意味を欲してしまうからなのではないだろうか。一つの物語に勇気を与えられ、自分が生きていることにも、同様に美しい意味を見出そうとする……だからこそわれわれは、物語に触れたくなり、明日を生きる力や知恵をそこから取り出そうとするのではないだろうか。
本作『落下の王国』は、そんな人間と物語の関係を、ターセム監督にしかできない方法で、豊かなイマジネーションと優れた表現力でかたちづくった傑作だといえよう。一人の才能に溢れたクリエイターが、全てを賭けて放った、多くの表現者に共通する創作論の提示。そして、生きることと物語ることの素晴らしさを描いたメッセージ。この全身全霊で放つ魂の叫びに、ぜひ耳を傾けてほしい。
■リリース情報
『落下の王国』4Kデジタルリマスター
7月15日(水)4K UHD&Blu-ray発売
<UHD+Blu-ray>
価格:7,040円(税込)
品番:TCBD-1939
<UHD+Blu-ray【初回生産限定・直販限定アクスタ付き】>
価格:11,440円(税込)
品番:TCBD-1939K
【特典映像】
1)ターセム監督インタビュー(初公開時版)
2)衣装・石岡瑛子インタビュー
3)舞台挨拶 ターセム、石岡瑛子、ニコ・ソウルタナキス
4)トークショー ターセム、石岡瑛子、ニコ・ソウルタナキス
5)イントロダクション
6)劇場予告編(リマスター公開日本版)
7)ドキュメンタリーNOSTALGIA
8)ドキュメンタリーWANDERLUST
9)初公開時未公開シーン集
10)ターセム監督オンライン登壇舞台挨拶(リマスター公開時)
11)リー・ペイス コメント映像(リマスター公開時)
12)ターセム監督インタビュー(リマスター公開時)
▼特典音声
オーディオコメンタリ:ターセム監督
【封入特典】
★アウターケース仕様
★24Pブックレット
★ポストカード
<Blu-ray>
価格:6,160円(税込)
品番:TCBD-1940
<Blu-ray【初回生産限定・直販限定アクスタ付き】>
価格:10,560円(税込)
品番:TCBD-1940K
出演:リー・ぺイス(加瀬康之)、カティンカ・アンタルー(諸星すみれ)、ジャスティン・ワデル(恒松あゆみ)、ダニエル・カルタジローン(宮本充)、エミール・ホスティナ(土田大)、ロビン・スミス(池田勝/辻親八※追補パート)、ジートゥー・ヴァーマ(有本欽隆)、レオ・ビル(日野聡)、ジュリアン・ブリーチ、マーカス・ウェズリー(楠大典)
※追補パート:坂東尚樹、藤本譲、緒方文興、船木真人、堀越省之助、酒巻光宏、武田華、木下紗華、古城望、多田啓太
監督・脚本:ターセム
プロデューサー・脚本:ニコ・ソウルタナキス
共同脚本:ダン・ギルロイ
衣装デザイン:石岡瑛子
音楽:クリシュナ・レヴィ
撮影:コリン・ワトキンソン
字幕翻訳:太田直子
吹替版翻訳:久保喜昭
2006年/アメリカ/原題:The Fall
発売元・販売元:TCエンタテインメント
提供:博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
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