『風、薫る』は“天職”との向き合い方を問う “りん”見上愛が体現してきた選択の難しさ
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第14週「ウソと誠」を経て、りん(見上愛)は看護婦として生きていくべきかどうかと思い悩む。看護婦の仕事が好きで、“天職”にしたいと思いながら進んできた彼女にとって、試練となる出来事がいくつも降りかかる。りんを見つめる直美(上坂樹里)の心配そうな表情がたびたび映し出されていたのも印象的だった。
りんが再び、迷いを覚えたきっかけとなったのが、看護婦の道を諦めると告げたヒデ(池田朱那)の決心を受け止めたこと。そして、重病患者の山本(本田大輔)の容体が急変したことで、逡巡しながらも彼の願いを叶えるために、花火大会に連れていったこと。
立て続けにりんに突きつけられた選択は、彼らの人生を大きく変える決断にほかならない。大事なときに間違えてばかりの彼女にとって、自らの選択は正しかったのか、頭の中でぐるぐると巡る問いに不安を覚えるのは当然だろう。
病気に倒れた母親のことで不安を覚える虎太郎(小林虎之介)の手を握れなかったこと。父親である信右衛門(北村一輝)の最期をそばで看取れなかったこと。何度も自らの選択を悔いてきた彼女だが、そのたびに後悔や過ちと向き合い、自問自答しながら進んでいく姿が物語を通して力強く描かれてきた。
そして、進むことで生じる迷いもまた、本作に登場するキャラクターの誰もが抱えているものとして映し出されている。特に明治の時代には確立されていなかった“看護師”という職業に初めて触れ、道なき道を切り拓く渦中にいる看護婦のりんや直美は、前例のない正解に惑わされてばかりいた。看護の本質とは何か。患者に寄り添うとはどういうことか。帝都医大病院の医師や患者たちの怪訝な目線が期待の色に変わったとしても、看護婦として生きていく道が勝手に整備されるわけではなく、自らの手で探し当てることに変わりはない。
それでも迷いながら、立ち止まりながらも、新しい風となって不確かな道のりに立ち込めた靄を払っていく。間違いを恐れるのではなく、間違いから学ぶことで、自身の信念と目指すべき目標を確固たるものにする。時代は違えど、りんや直美が迷うなかで直面する疑問や葛藤は、正しさを追い求めて苦悩する現代の人々にも通じていた。
第13週「白日の夢」からは、りんと直美、多江(生田絵梨花)、トメ(原嶋凛)の4人が、帝都医大病院で看護婦取締となって働き始める。教わる立場から教える立場へと役割を変えるなかで強く感じるのが、りんと直美のバディとしての成熟だった。お互いに出会った当時は、生い立ちや境遇の差から相手が抱えている本心や悩みに踏み込むことを避けていたように思う。しかし、今ではヒデの一件で落ち込むりんを直美は自然に支え、詐欺師の寛太(藤原季節)に直美が問い詰められた際は、すかさずりんが割って入る。お互いがふとしたときに見せる迷いの表情を見逃さず、寄り添わずにはいられない。2人は同じ道を歩む“同志”であり、もっとも近しい場所にいる“友”ともいえる。
ただ、決して劇的な出来事が彼女たちの結びつきを強くしたわけではない。同じタイミングで看護婦を目指すために養成所へと足を踏み入れ、1期生の仲間たちとともにバーンズ先生の教えを胸に刻んだ。晴れて看護婦見習いとして病院で研修を受けることになり、配属された外科や内科で経験を積む。りんと直美は同じ歩幅で同じ道を歩いてきたからこそ、互いの歩みが遅くなったり速くなったり、不意に歩幅が乱れた瞬間に気づくことができる。お互いを見捨てておけないし、放っておけない2人の関係性は、物語の前半を通して自然なグラデーションで醸成されていた。
これから先の展開に目を向けると、約4週にわたって放送される「新潟編」が、りんにとっては大きな転換点となるはずだ。シマケン(佐野晶哉)や虎太郎との恋愛模様も含めて、思いもよらない方向から吹く風の強さと温かさに触れながら、看護婦としての試練に向き合うりんと直美の歩みを見守りたい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK