『箱の中の羊』大悟はなぜ主演として成立したのか? “自然体”が生んだ俳優としての説得力

 普段の大悟の特徴といえば、印象的なのが岡山弁。劇中の健介の一人称は大悟と同じく“ワシ”であり、彼が口にする言葉としては岡山弁が採用されている。演じ手である大悟の日常の延長線上に、健介の生活があったわけだ。これもまた、スクリーン上の大悟が自然体に映る根拠だといえるだろう。

 私たちの多くが「演技」というものについて考えるとき、別人になりきる人々の姿を思い浮かべるのではないだろうか。たしかに、そういったパターンはある。けれどもすべてではない。『箱の中の羊』の大悟に関しては、彼のほうから役や作品に歩み寄っていったというよりも、是枝監督の演出によって、役や作品のほうが彼に歩み寄っていったといえると思う。そして、大悟本人の歩くペースと歩幅が、劇中の健介とほとんど同じだった。だから劇中には、バラエティ番組などで見かけるあの飾らない感じの大悟がいながら、健介という人物を存在させてもいるのだ。

 とはいえこれは、必ずしも劇映画の主人公像を成立させるものでもない。スクリーンの中で自然体であることと、映画の主演を務められるかどうかは、まったく別の話だ。

 是枝監督をはじめ、本作での大悟の演技に、ビートたけしの面影を垣間見る人たちが少なくないらしい。なるほどとは思うが、歩き方や立ち姿から物語を見出すというのは、受け手の感性に拠るところが大きいだろう。彼らが映っている写真を見て、そこに「人生」や「生活」を感じる人はいるが、そういう人ばかりではない。けれども映画の場合、観客は連続的に映し出される写真と対峙することになる。

 たとえば劇中で大悟がジョークを言ったとしよう。前後のカットによっては、それはウケを狙ったものとして私たちに提示される。しかし前後に映し出されるカットが健介という人間の実存に関わるものであったとしたならば、それを私たちはウケ狙いのジョークとしては受け取らないだろう。大悟の佇まいに「人生」や「生活」、あるいは「哀愁」を感じるのは人それぞれだが、映画という芸術との相性は、たしかなものがあるかもしれない。スクリーンに映し出される、ビートたけしのように。

■公開情報
『箱の中の羊』
全国公開中
出演:綾瀬はるか、大悟(千鳥)、桒木里夢、清野菜名、寛一郎、柊木陽太、角田晃広、野呂佳代、星野真里、中島歩、余貴美子、田中泯
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:坂東祐大
製作:フジテレビジョン、ギャガ、東宝、AOI Pro.
制作プロダクション:AOI Pro.
配給:東宝、ギャガ
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