一青窈、『シンシン アンド ザ マウス』に共感 「人との接触でしか回復できないことがある」
原作者の吉本ばななは“魂が透明”な人
――なんとなくわかります。今回の映画は、監督曰く、かなり「音」にこだわった映画になっているようです。
一青:そうですよね。そもそも、バンドマンの友達に誘われて、台湾にライブを観に来るっていう流れが面白いし……冒頭のシーンも、セリフがないまま、淡々と日常を切り取っていくんだけど環境音は、しっかり入っているじゃないですか。その「余白」のようなものが、私にはすごく印象的でした。それが、最初に言ったような、自分自身の過去を呼び起こすことにも繋がっているように思っていて。このテンポ感だからこそ、そこに自分の記憶を重ねることができるというか。なので、映画を観てから、原作を読むみたいな流れのほうが、ひょっとすると美しいかもしれないです。映画の中にある「余白」に自分の体験を重ねながら、そのあと原作小説を読むと、映画では具体的に語られていなかったちづみの思いのようなものも全部書いてあるので、その答え合わせができるっていう。
――たしかに。一青さんは、本作の原作小説を書かれた吉本ばななさんとも交流があるとのことですが、吉本さんの小説全般については、どんな印象をお持ちなのでしょう?
一青:今回の映画の原作となった、ばななさんの短編『SINSIN AND THE MOUSE』(『ミトンとふびん』収録/新潮社)もそうですけど、ばななさんは、気持ちの細かいヒダヒダみたいなものを喩えるのが、すごく上手ですよね。比喩表現がいつも見事で、自分が歌詞を書くときにも、参考になるところがあって。自分の気持ちも他人の気持ちも、優しさをもって客観的に洗い出すみたいなイメージかな? 洗い出されたものを、どれひとつ雑に扱うことなく、全部ていねいに扱うような優しさが、その根底にはあるように思っていて。だからこそ、読んでいる人に、嫌な手触りを残さないというか、読んだあとに、いつも温かい何かを残してくれるようなところがあって。そのあたりが、とりわけ女性たちから長く支持されている、ひとつの理由なんじゃないかなって思います。
――ちなみに、吉本ばななさんって、どんな方なんですか?
一青:小説のイメージのまんまですよ。魂が透明な感じがするというか、思ったことも感情も、全部出してしまうようなところがあって。そういう意味では、すごくサッパリしている方だと思います。あと、物怖じしないところがあって……その芯の強さみたいなものは、今回のちづみにも、ちょっと感じられましたよね。
日本と台湾の架け橋としても重要な一本に
――なるほど。では最後に、一青さんとしては、今回の映画をどんな人たちにお勧めしたいですか?
一青:入り口は、何でもいいと思うんですよね。ばななさんのファンでも、岸井さんのファンでも、ジンホアさんのファンでも、どんな入り口でもいいというか、台湾にちょっと興味があって、行ってみたいなって思っている人は、是非観てもらいたいです。こんなふうな時間の過ごし方が、台湾にはあるんだよっていう。あと、この映画でも描かれているように、台湾の人たちはホント人懐っこくて、現地で気軽に声を掛けられたりするかもしれないけど、そこはひるまないでほしいというか(笑)。さっき言ったように、ごくごく自然な感覚で言っていることが多いと思うので、そこは物怖じせずに乗っかってほしい。優しさを受け取ることをためらわないで、どんどん甘えていってくださいっていうのが、私からのアドバイスですかね(笑)。
――なるほど(笑)。あと、もうひとつ……自分は本作を観ながら、かつてホウ・シャオシェン監督が日本で撮影した、一青さん主演の映画『珈琲時光』(2003年)のことを少し思い出しました。
一青:ああ、そうですね。街を歩くシーンが多かったり、構造的にはすごく類似点が多いというか、絵本が思い出を紐解くきっかけになるところも、ちょっと共通していますよね。あと、主人公の母親を、どちらの映画も余貴美子さんが演じているという(笑)。
――そう、その事実に、改めて驚いたり(笑)。『珈琲時光』は、全編日本ロケの作品ですが、どこか台湾映画のような雰囲気があって。それと同じように本作も、外国が舞台の作品でありながら、どこか日本映画の雰囲気がある作品になっているなって思ったんです。
一青:なるほど。そうかもしれないです。『珈琲時光』の電車のシーンとか、すごく印象的でしたよね。私たちが普段当たり前のように見ているものを、外国人の監督は、そんなふうに切り取るんだっていう。自分たちが気づかなかったことも、外国人の監督の目を通して見ると、すごく面白く見える。そういう意味でも、こういった日本と台湾のコラボレーション作品はすごく面白いと思うし、もっとたくさんあっていいと思うんですよね。お互いの文化を、新鮮な切り口で見ることができるから。私としても、そうやって日本と台湾の架け橋になるような活動を、これからも引き続きやっていけたらいいなって思っています。
■公開情報
『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』
新宿バルト9、シネスイッチ銀座ほかにて公開中
出演:岸井ゆきの、ツェン・ジンホア、藤原季節、中田青渚、伊勢佳世、柄本時生、飯田基祐、リン・チェンシー、エンジェル・リー、リン・メイジェン、余貴美子
原作:吉本ばなな 『SINSIN AND THE MOUSE』(新潮社刊『ミトンとふびん』収録)
監督:真壁幸紀
脚本:真壁幸紀、加藤法子
劇中絵本:『ないしょのおともだち』(ほるぷ出版)ビバリー・ドノフリオ:文/バーバラ・マクリントック:絵/福本友美子:訳
製作幹事・企画・制作プロダクション:ROBOT
共同幹事:TCエンタテインメント
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
製作:映画「SINSIN AND THE MOUSE 」FILM PARTNERS
2026年/日本/カラー/スタンダードサイズ/5.1ch/108分/G
Copyright © 2021 by Banana Yoshimoto All rights reserved.
Japanese original edition published by Shinchosha Publishing Co., Ltd., Japan in 2021.
The permission to use the original novel to produce this movie has been arranged with Banana Yoshimoto through ZIPANGO, S.L.
©2026映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS
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