『Michael/マイケル』に賛否の声が飛び交う背景を解説 “演劇”ではなく“音楽”で描いた本質

 とはいっても、もちろん本作が栄光だけを描いていたわけではない。父親という重圧に苦しめられるマイケルの姿が、本作では悲痛なものとして描かれている。兄弟姉妹の多い大家族のジャクソンファミリーの一員として生まれたマイケルは、父親の体罰を含めた高圧的な指導のもと、ものごころついた頃からパフォーマンスを叩き込まれていた。音楽的才能に恵まれた兄たちをさらに凌駕する天才であるマイケルだったが、一挙手一投足を見られ怒鳴られるという状況で、怯えながら歌い踊るしかなかったのだ。

 劇中で描かれるように、マイケルは圧倒的なパフォーマンスで大勢のファンを生んでいったが、同時に非常に内向的かつ人付き合いにも消極的で、部屋にこもるようなタイプだった。これは、幼少期に父親に強く支配されていた影響だと考えられる。本作ではそんな孤独さを強調するためか、チンパンジーのバブルスは登場するものの、マイケルが親交のあったダイアナ・ロスやブルック・シールズ、エマニエル・ルイス(エマニエル坊や)などの存在も排除されている。

 マイケルは、『オフ・ザ・ウォール』(1979年)や、「世界で最も売れたアルバム」として知られる『スリラー』(1982年)、『バッド』(1987年)など、世界的ヒットを連発し、ツアーでも大勢の動員を獲得していったが、一方で“奇人、変人”として、多くは事実と反するゴシップのネタにもなった。「エレファント・マンの骨を購入しようとしている」といったようなデマを、マイケル自身がネタにするようなこともあった。そういったメディアの餌食になったのは、本人のコミュニケーションの方法が特異であった理由もあるのだろう。

 しかしマイケルのファンは、それが彼特有の優しさや純粋さ、そして家族との関係によって醸成されたものだということを知っている。本作が伝記映画として、そのことを整理しながら一本の線に繋げて描いたことで、ファン以外にもマイケルのそうした人間性というものが、無理なく伝わったのではないだろうか。また、ギャングの抗争問題を自分なりに解決しようとしたり、病気の子どもたちの力になろうとするなど、他人への強い共感性から“世界を変える”ことに尽力したことも、しっかりと描かれている。

 マイケルが逮捕された1993年、ファンであった筆者は学生時代の多感な時期に彼がメディアによって連日、面白おかしく中傷されていたことを、心の痛みとともに記憶している。そのことで学校で冷やかされたり、「そんな奴のファンなんかやめろ」と言われたことも、昨日のように鮮明に覚えている。もちろんマイケルの受けた傷とは比べられないが、子ども心にそれは辛い経験だった。

 そんな筆者からすると、いまマイケルに向けられた、多くの誤解や奇異の目が、この伝記映画が大ヒットすることで解消され、ポジティブな見られ方をすることには、小さくない意味がある。マイケルはこの世を去ってしまったが、2009年に『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』が公開され、2026年に本作『Michael/マイケル』が公開されることで、マイケルの名誉が一部回復されたり、彼の誤解されていた部分が説明され、ポジティブな評価を受けるということを、ファンとして迫害されていた頃の過去の自分に教えてあげたいと感じる。

 本作について、ドラマ性が薄いとする意見も目立つが、そうした時代を生きてきた者としては、まずマイケルを、より妥当な位置に世間が置き直すことに大きく寄与したという点だけでも、意義深いものがあると主張したい。それほど、マイケルへのメディアの攻撃は執拗であり、世間の目は冷たかったのだ。そんな世間が悪びれもせず今回の映画を楽しく消費することには、ある程度の抵抗を感じるのも確かなのだが。

 では、本作は一本の映画としてはどうなのか。批判的な意見としては、あまりに多くの楽曲が使われていることで、ミュージックビデオのようだとする指摘もある。しかし、マイケルの生涯というのは、劇中で描かれているように、幼い頃からステージでパフォーマンスをすることを強いられ、しかしそこに生きがいを見出したマイケルは、ソロとして独立してもそのままショービズ界で活躍し続けるというものだった。まさに、歌とダンス、エンターテインメントに尽力した人生だったのだ。そんな彼を描いた映画が、彼の音楽や、ジャファーによるパフォーマンスの再現で彩られていることは、むしろ必然なのではないか。

 ミュージシャンや小説家、画家など、著名な人物の伝記映画は、世界中で数多く作られている。しかし、そのほとんどは、人生の出来事を“演劇風”に再現した部分で占められている。もちろん本作にもそうした部分はあるが、それが流れるように“音楽的”に表現されていることは、本作の大きな強みだと考えられる。

 クライマックスである、ジャクソンズの「ヴィクトリー・ツアー」の場面は圧巻だ。ジャファー演じるマイケルは、父親のジョーからの離脱を、ステージ上で宣言するのである。会話によるコミュニケーションでなく、迫力ある歌とダンスと自身の言葉、そして視線という“パフォーマンス”全てによって。それこそが、マイケル・ジャクソンという人間の最も強い“本質”だというのだ。

 それは一見すると、法的な問題によって新しく組まれた、本作の消極的な演出プランに見えるかもしれない。しかし、マイケルという傑出した存在を、誰も到達し得ないだろう、その圧倒的なパフォーマンスによって認知してきた者としては、その選択は正しいとしか判断できない。そして本作『Michael/マイケル』が、ファンだけでなく多くの観客の心を打ったのは、“まさにそこ(This is it)”だったのではないだろうか。

参考
※ https://www.wsj.com/business/media/the-michael-jackson-biopic-that-nearly-blew-up-is-poised-to-be-a-hit-12315f64

■公開情報
『Michael/マイケル』
全国公開中
出演:ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・ヴァルディ、コールマン・ドミンゴ、ニア・ロング、ケンドリック・サンプソン、マイルズ・テラー、ローラ・ハリアー、ケイリン・ダレル・ジョーンズほか
監督:アントワーン・フークア
脚本:ジョン・ローガン
製作:グレアム・キング、ジョン・ブランカ、ジョン・マクレイン
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
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公式サイト:https://www.michael-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/michaelmoviejp

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