『風、薫る』バーンズ先生とりんたち1期生の歩み “日本の看護”を築いた偉大な功績
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第12週「旅立ち」では、いよいよりん(見上愛)と直美(上坂樹里)たち梅岡女学校付属看護婦養成所の1期生たちが卒業を迎える。養成所編は第5週から始まったので、非常に長い時間をかけて彼女たちの葛藤と成長が描かれてきたのがわかる。
そして、1期生たちの卒業と同時に描かれるのが、これまで厳しくりんたちを指導してきたバーンズ先生(エマ・ハワード)との別れ。元々は帝都医大病院で引き続き看護婦を受け入れる話だったはずが、院長の多田(筒井道隆)は病院内に看護科を新設するとして、当初の予定を翻す。「残り4カ月、卒業まで全力で指導をお続けください」と伝えられたバーンズは、1期生の卒業をもってスコットランドに帰ることになってしまった。卒業を間近にして6人に金言を授けることになるが、初めてバーンズが登場したときのことを思い出すと、生徒たちの反応はまるで異なっている。
最初、ナイチンゲールの看護を学んだ彼女は宿舎にやってくるやいなや、早速授業をスタートさせると、生徒たちが苦労して考え出した“看護”の翻訳にも耳を貸すことなく、実践として宿舎のシーツをすべて換えるように言い渡す。りんたちも素直に従ってシーツ交換に勤しむが、その度にバーンズは「This is not nursing(これは看護ではない)」と繰り返す。戸惑いの表情を浮かべる1期生たちの姿がすでに懐かしい。
直美は「天の使いじゃなくてやっぱり天狗だね」と呟いていたが、彼女の凛とした表情の中にある厳しさは、次第に生徒たちにも看護婦として生きることの覚悟として伝わっていく。バーンズを演じるエマ・ハワードは彼女の話し方に高潔さを、佇まいに威厳を宿しながら、生徒たちを遠くから見守る“導き手”としての姿を体現する。視聴者がバーンズの厳しい言葉の裏にある温かさをたしかに感じとれるのは、バランス感覚が冴えるハワードの芝居によるところも大きい。
さらに、喜代(菊池亜希子)が「意外と良い方なんですよね」とこぼしたときは、耳聡く「Actually?(意外と?)」と反応する。実は日本語を理解できることを隠しており、直美や多江(生田絵梨花)の通訳がなくとも日本語で意思疎通ができたことが発覚。彼女はただ厳しいだけではなく、したたかな一面も隠し持っていたのだ。りんや直美たちが帝都医大病院で看護婦見習いとして実習を行うことになると、その隠していた一面を存分に発揮して、裏で目を光らせる。もちろん、医者の藤田(坂口涼太郎)に文句を言われたときは、日本語がわからないフリをしてとぼけることも忘れない。
特にりんが和泉侯爵の夫人・千佳子(仲間由紀恵)の看護を担当するように多田から告げられた際は、責任を押し付けようとする彼らの思惑を察知して、自らが先頭に立って彼女を庇っていた姿が印象的だった。結果的にりんの決意と直美の後押しもあって、千佳子の看護を担当した経験はりんが看護婦の道を進んでいくうえで大きな糧となった。それでも、りんが迷いや悩みを抱えたときには、バーンズの言葉が大きな支えになっていたのは間違いない。大切な人の喪失を受け入れられず、看護婦の道を離れたゆき(中井友望)にとっても、真剣な表情で語るバーンズの教えは強く胸に刻まれているはずだ。
元々、スコットランドの病院で働いていたバーンズが日本行きを決めた理由。バーンズは「看護婦が日本のどんな病院にも当たり前にいるようになる」ことが自身の夢になったと話す。バーンズの胸の内が明かされるのは初めてのことだった。
ただ、彼女もりんや直美が看護婦として成長していく姿と、りんたちに続く未来の看護婦たちが日本で生まれる光景を見届けることができないジレンマもあったはずだ。りんや直美が帝都医大の実習で新たな気づきを得ていく姿を見守りながらも、捨松(多部未華子)に「私は 看護婦を育てられなかったようです」という言葉を残していたのは、自身の夢が叶う瞬間を目にすることなく去ることに一抹の後悔があるのかもしれない。1期生たちの卒業後の進路はもちろんだが、養成所編で印象深い活躍を見せたバーンズの“旅立ち”にも注目したい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK