朝ドラはなぜ“芸人”と相性がいい? 『風、薫る』原田泰造、シソンヌじろうらがアクセントに
NHK連続テレビ小説(通称、朝ドラ)に欠かせない存在が、芸人として活動する傍ら、俳優業にも活躍の場を広げている、いわば“芸人俳優”だ。普段からコントであらゆるキャラクターに憑依したり、何百回、何千回と披露してきたコントを毎回新鮮な形で届けている芸人の多くは演技力が高い。また彼らは人間観察力に優れ、滑舌良好、突然のフリにも即興で応えるアドリブ力を持ち合わせているため、俳優として重宝されるのは当然のことのように思える。特に人間の営みを描く朝ドラと、そこにいるだけで生身の人間としてのリアリティを醸し出せる芸人との相性はすこぶる良く、現在放送中の『風、薫る』にも多数の芸人が出演している。
ネプチューン 原田泰造
「演技が上手いと思う芸人ランキング」で必ずと言っていいほど上位に名前が上がるのが、ネプチューンの原田泰造だ。1995年に俳優デビューして以降、変幻自在のバイプレイヤーとしてはもちろんのこと、米倉涼子演じる魔女の堅実な夫を好演した『奥さまは魔女』(TBS系)、全国の“サウナー”から絶大な支持を誇る『サ道』(テレ東系)シリーズ、故・藤田まことが約20年にわたり主演を務めた国民的人気刑事ドラマのオマージュ作品『はぐれ刑事三世』(テレビ朝日系)など、主演・主役も多数務めている。出演数と実力ともに芸人俳優の中でも頭一つ抜きん出ており、純然たる俳優として認識している人も大勢いるのではないか。
NHK作品ではもはやお馴染みの存在であり、朝ドラ『ごちそうさん』(2013年度後期)では、ヒロイン・め以子(杏)の父親役も経験。洋食屋を営む店主で、気が短く頑固な性格だが、家族への愛情を滲ませる演技を見せていた。大河ドラマにも『篤姫』(2008年)にはじまり、『龍馬伝』(2010年)、『花燃ゆ』(2015年)、『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(2025年)と出演を重ねている。演技に厚みがあり、かつ良い意味で男臭く、イケメンよりもハンサムという言葉が似合う原田は、歴史上の偉人や過去の時代を生きるキャラクターが自然とハマるのだ。
一方で、どんな役でも憎めない愛嬌と滲み出る人の良さがあり、『生理のおじさんとその娘』(NHK総合)の幸男や、“おっパン”こと『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ)の誠のように、時代や周りに合わせて価値観をアップデートしていく役柄も嫌味なく演じることができる。『風、薫る』で演じる牧師・吉江善作も慈愛に満ちた人。身寄りのない子どもの面倒や炊き出しなどの慈善活動に従事しているが、恩着せがましい感じは一切なく、本人はあたかも当然のことのように行なっている節がある。そんな立派な人にもかかわらず、親しみやすくチャーミングなキャラクターとして成立しているのは原田だからこそ。特に涙もろい吉江に、直美(上坂樹里)が呆れた様子でつっこむ親子のようなやりとりは笑いと温かみに溢れており、本作随一のほっこりタイムだ。それにしても、炊き出しの時に着用しているフリフリのエプロンが、あんなにも似合わないのに、あんなにもかわいい人は原田以外に存在しないだろう。
シソンヌ じろう
5月25日から5月29日に放送された第9週には、看病婦・フユ(猫背椿)の夫で、足が不自由な康介役でお笑いコンビ・シソンヌのじろうが登場した。2006年に結成され、コント日本一を決定する『キングオブコント2014』で2810組の中から見事7代目王者の座を掴んだシソンヌ。ネタづくりはボケのじろうが担当しており、じろう演じる独特なキャラクターと長谷川忍の理性的かつキレのあるツッコミが織りなすシュールな世界観が人気だ。コラムニスト、小説家、脚本家としての顔を持つじろうはセンス系芸人の一人にも数えられ、芸能界にもファンが多い。
またシソンヌはじろうと長谷川ともに演技力の高さを活かし、俳優としても活躍しており、2024年には朝ドラ『虎に翼』にコンビでゲスト出演したことでも話題に。特にじろうは早い段階から俳優業に進出しており、朝ドラ『まれ』(2015年度前期)では胡散臭い広告代理店の男、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)では朝日新聞社に勤める田畑(阿部サダヲ)の同僚でスポーツ記者の尾高役に抜擢され、作風や時代性を的確に捉えた演技で作品を支えていた。
じろうは一見すると素朴な印象を受けるが、その才能と知性から生まれる独特の色気がある。今回演じた康介も腰を損傷して以来、ほぼ寝たきりとなり、すっかり気力と自信を失っていたが、落ち着いた物腰や知的な話し方から文豪のような風格が感じられた。一方で、りん(見上愛)や直美に洗髪や寝具の選択を申し出られた康介が「いや、それは……」と断ると見せかけ、「助かる」と頭を下げるシーンでの小気味良い間や、悲壮感とユーモアが塩梅よく合わさった演技は、芸人であるじろうならではだ。1週のみの出演は少々勿体なく感じるので、今後も定期的に顔を見せてほしい。