『田鎖ブラザーズ』渡辺真起子の存在感に息を呑む 秦野は遺族の傷を利用する“敵”なのか

「傷を理解する人」でありながら、「傷を行動原理へ変換する人」

 「みんな事件を忘れていく」その秦野の言葉を繰り返す真の目はどんどん赤くなっていく。「父ちゃんと母ちゃんを忘れていく……」その言葉の向こうには、その喪失に傷ついた真をみんなが忘れていく悲しさ、寂しさ、苦しさが滲んでいた。

 こんなにまだ傷が痛むのに誰も気づいてくれない。でも、どこかで気づかれないようにもしてきた自分もいる。だからこそ、気づいてくれた秦野には言わずにはいられなかったのだろう。「本当は……何か作る仕事がしたかった……父ちゃんみたいに」と。

 「どうやったら、解決できると思います? ここで正論はいらない」と真の手を握る秦野。「被害者が受けた痛みも、加害者が受ける痛みも、おあいこ。トントンです」トントン、トントン――その手の動きとともに「トントン」という言葉が呪文のように響く。

 そうして、成田の母も、宇野も、秦野に心酔していったのだろう。誰もが日常の中で何事もなかったかのようにしてきた自分の痛みに気づいてくれる唯一の人として。それゆえに、抑え込んできた「許せない」という心の根に花を咲かせ、犯行へと駆り立てたのだとしたら。真の復讐心が膨れ上がっていく未来が待っていることが想像できる。

静かに浮き上がってくる“支配”の気配

 そんな真のもとには稔からの着信とメッセージが。しかし、それは物理的にも心理的にも真には届かない。稔が送った「まずいことになった」というのは、晴子(井川遥)とともに大学生のドラッグ売買をきっかけとして、五十嵐組へのガサ入れを仕組んだことだろうか。その晴子の存在を宮藤が悪気なく係長の小池(岸谷五朗)に明かしてしまったことも気がかりだ。

 稔と晴子が警察にガサ入れをさせた目的は、五十嵐組が持ち去ったと思われる津田(飯尾和樹)の取材ノートを回収すること。だが、そのノートは生前、津田が辛島ふみ(仙道敦子)に買い取るようにと訪れていたことが描かれる。そして、ふみにとっては過去を蒸し返されることは、今のキャリアを踏まえると何よりも避けたいこと。嗅ぎ回る田鎖兄弟について、もっちゃん(山中崇)の肩に手を置いて何かを呟いた。その言葉は、どんな内容だったのか。

 辛島家では、もっちゃんの母・カル(三谷侑未)もふみの夫・貞夫(長江英和)の世話と家事全般を担っていることが見えてきた。カルに家事をお願いするように、もっちゃんにもいろいろと用事を頼んでいるのは、この家ではごく当たり前のことのようだった。もしかしたら、もっちゃん親子にとってふみは、真にとって秦野がそう感じられたように何かしらのきっかけがあって、「自分に気づいてくれる人」となっているのかもしれない。だからこそ、そうであってほしくない想像が膨らんでしまう。

 恐ろしいのは、理解者の顔をした支配者だ。予告映像では、真と稔の間ですれ違いが起きていく様子が映し出された。「秦野小夜子は敵だよ」という稔の声は、今度こそ真に届くのだろうか。そして、もし本当に秦野が遺族たちの殺人教唆をしていたとしたら、その目的は何なのか。新たな事実が浮かび上がるほどに、深い謎の渦に巻き込まれていく。次回もまた息継ぎを忘れる濃厚な1時間となりそうだ。

■放送情報
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:岡田将生、染谷将太、中条あやみ、宮近海斗、和田正人、飯尾和樹(ずん)、長江英和、山中崇、仙道敦子、井川遥、岸谷五朗
脚本:渡辺啓
音楽:富貴晴美
主題歌:森山直太朗「愛々」(ユニバーサル ミュージック)
演出:山本剛義、坂上卓哉、川口結
プロデュース:新井順子
撮影監督:宗賢次郎
編成:高柳健人、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TAGUSARI_bros/
公式X(旧Twitter):@tagusari_tbs
公式Instagram:tagusari_tbs
公式TikTok:@tagusari_tbs

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